昨日のニュースでcasirivimabとimdevimabの抗体カクテル療法の承認申請が出ていました。今の時点では出ていない情報が多いところですが、興味深かったのでひとまず調べたところを書いてみます。
COVID-19の外来患者に投与した際の入院・死亡リスクを検討した第1-3相試験(REGN-COV2067試験)で結果が出たことで申請が出ているようです。
ただ、これについてはどうやら論文化はされていないようなので、詳細は調べても分かりませんでした。あとでわかる範囲を記載してみます。
(2021.07.31 追記:プレプリントで論文化されていましたので別で記事にしましたREGN-COV2067試験(抗体カクテル療法、治療)についての追記 )
予防投与を行なった試験(REGN-COV2069)については、Preprint(査読前)ですが結果が論文化されていたので、まず内容をみていきます。
目次:
REGN-COV2069試験(予防投与)
試験の概要
Clinical trials.govでの概要はこちらにあります。
元論文はこちら
Subcutaneous REGEN-COV Antibody Combination for Covid-19 Prevention
またsupplementary appendixはこちらにあります
Subcutaneous REGEN-COV Antibody Combination for Covid-19 Prevention | medRxiv
アメリカ、ルーマニア、モルドバ共和国で行われた多施設四重盲検(Participant, Care Provider, Investigator, Outcomes Assessor)のランダム化比較試験となっています。
ざっくり言うと「家庭内でコロナ感染があった場合の同居者に予防的に中和抗体を投与して発症がどうなるか」をみた試験と言えます。
PICOに沿って整理してみます。
P(被験者):
12歳以上、SARS-CoV2感染にした患者と同居かつ患者と28日以上の同居が見込まれる人。
基準に合致した被験者は、同居者の感染が分かってから96時間以内にランダム化される流れなようです。
その時点でRT-qPCR検査を受けて陰性かつ血清学的に既感染を示す結果や過去にPCR陽性となった病歴がなければコホートA(今回の予防投与の研究)、陽性かつ既感染がなければコホートB(別の研究になるので後述)に分けられます。
詳細なinclusion, exclusion criteriaはsupplementary appendixに記載されています。
なお、ここは重要な点だと思いますが、ワクチン接種者は除外されています。
I(介入):
ランダム化のベースラインのタイミングで、皮下注射で4箇所に計1200mgの中和抗体カクテル(カシリビマブ+イムデビマブ)を投与
C(コントロール):
皮下注射でプラセボを投与
O(アウトカム):
Primary outcome
28日時点でPCR陽性かつ症候性の被験者の割合
症候性の基準としてはbroad-term(広義), CDC definition, strict-term(狭義)とそれぞれ分けられているようです。
Outcomeがどういった基準になるかは重要な点なのでsupplementary appendixから見てみます。
広義では
38℃以上の発熱 or 熱感・鼻水などの諸症状
(結果も最も多いのでorだと思いますが、orなのかどうか記載がない)。
CDCの定義は
2つ以上の症状
or 咳、息切れ、呼吸苦、新規の嗅覚異常、新規の味覚異常
or 臨床的もしくは画像で肺炎、ARDSをきたす重度の呼吸障害
狭義は
38℃以上の発熱+1つ以上の呼吸器症状
or 2つ以上の呼吸器症状
or 1つ以上の呼吸器症状+2つ以上の非呼吸器症状(下痢、頭痛、筋肉痛など)
それぞれの場合の結果が別々にsupplementary appendixに記載されています。
Secondary outcome以下は多数あるので割愛します。
また、7ヶ月のフォローアップピリオドをとり、有害事象などが観察されています。
結果
まず候補となった2475名のうち、PCR陰性が2067名(83.7%)でした。そのうち、既感染を疑う所見がなかったのは1505名(72.8%)でした。
と言うわけでこの1505名がランダム化され、介入群753名、コントロール群752名となっています。
なおこのうち被験者たちと同居し、発症していた患者のうち25%が同様のカクテル療法を用いたREGEN-COV2067試験(外来患者の治療試験)を受けているようで、少しややこしいのですが、影響はないと論文中には記載されています。
Primary outcomeを満たしたのは介入群11/753名(1.5%)vs コントロール群59/752名(7.8%)でp<0.0001という結果となりました。
相対リスクだとわかりにくいので、絶対リスク減少(ARR)で考えると6.3%、NNT(number needed to treat 何人に使えばアウトカムを1人減らせるか)に直すと約16ですね。
また症候性の定義が変わった場合ですが
CDCの定義では6.1% vs 0.8% (ARR 5.3% NNT 約19)
狭義では2.9% vs 0.3% (ARR 2.6% NNT 約38)
となっています。
有害事象
全体に認められた有害事象は介入群 vs コントロール群で20.2% vs 29.0%でした。また、COVID-19関連ではないと考えられる事象は16.0% vs 16.5%でした。
死亡者はどちらの群も2名ずつ出ており、プラセボ群では心停止、銃による創傷(!)が原因で、介入群ではうっ血性心不全、突然死でした。
現状で不明な点
・ワクチンの影響
Discussionにも記載されていますが、今回の研究はワクチンがない状態での家庭内感染を防ぐ目的で行われているので、ワクチンが普及している現状ではベネフィットが大きく変わる可能性があります。
・副作用
家庭内では感染リスクが高いとはいえ、プラセボ群でもアウトカムを満たすのが7.8%です。新規の薬剤で未知の有害事象が起こりうるのは避けられないことですが、健常者にうつことを考えると、副作用の程度と頻度は重要になります。今回出ていた死亡者が、そういった突然の死亡が起こりうるベースがあったのかどうかは気にかかります。
・薬価
どうしても抗体医薬なので高いかと思いますが、、どうなのでしょうか。
・アウトカムの意義
発症を防ぐことでどこまでベネフィットが得られるのかがリスク因子の多い患者かどうかで変わるため、このアウトカムにどこまでの意義を見出すかが難しいところです。また、さらなる感染を防げるのかどうかは現時点ではまだ分かりません。他に検査での偽陽性の問題も挙げられます。いずれのアウトカムの定義にしても差は出ているので、効果はあるものだろうと思われます。
以上の点を踏まえると、ワクチンが行き渡っている現状で、予防投与に関しては適応をどこまでにするのか、がかなり難しい問題となりそうです。
PCR陽性群のコホート
最初のランダム化の時点でPCR陽性となった群はコホートBに振り分けられ、別の研究として論文化されています。
Subcutaneous REGEN-COV Antibody Combination in Early SARS-CoV-2 Infection
基本的な試験の構造は同じで、アウトカムが「28日時点で症候性となった割合」となっています。
314名が組み入れられ、既感染の所見がない人が207名でした。
結果は介入群 vs コントロール群で29/100(29%) vs 44/104(42.3%)でp=0.038と有意な差を示すものとなりました。
有害事象も差はなく、死亡者は出ていなかったようです。
なお、こちらの研究のsupplementary appendixもここで見られます。
Subcutaneous REGEN-COV Antibody Combination in Early SARS-CoV-2 Infection | medRxiv
REGN-COV 2067試験(外来患者の治療)
一番肝心なのは治療に関する話だと思いますが、こちらの試験はまだ論文化されていないようで、詳細が分かりませんでした。
上記のClinical trial.govでもまだ試験終了となっておらず、第1−2相試験時点での情報しかありません。第1-2相はNEJMに載っています。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2035002
Clinical trialsの情報とニュースリリースの情報(下記)によると4567名の大規模な四重盲検ランダム化比較試験で、Primary outcomeは少なくとも1回のCOVID-19関連入院もしくは死亡となっているようです。
Outcomeとして公表されている部分としては1200mg投与群 vs プラセボ(n=736+748)、2400mg投与群 vs プラセボ(n=1355+1314)と2つの用量にわかれています。
今のところ結果はここに出ているものしかないみたいですね。
primary outcomeとしては1200mg群 7/736(1%) vs プラセボ 24/748(3.2%) でp<0.0024と有意差があり、2400mg群 18/1355(1.3%) vs プラセボ 62/1314(4.2%) でp<0.0001と有意差を認めています。
ここからARRと NNTを計算すると、投与量毎のARRが1200mg群で2.2%(NNT 約45)、2400mg群で3.3%(NNT 約30)となっています。
なお、このアウトカムはいわゆる複合アウトカムなので、入院と死亡がそれぞれどれくらいの実数なのかですが、そこは出されていません。
有害事象の欄に死亡数は出ていますが、それぞれ1200mg群(n=827)で1名、2400mg群(n=1849)で1名、プラセボ群(n=1843)で5名出ています。n数が上記のprimary outcomeより大きいので、除外になった症例なども含めて解析されているのではないかと思われます。
仮にここで出ている死亡者数をprimary outcomeの一部として考えた場合、それぞれかなり少ないことがわかります。先ほどのprimary outcomeのn数で考えると1200mg群 1/736=0.14%, 2400mg群 1/1355=0.07%, プラセボ群 5/1314=0.4%でしょうか。死亡率も減らせそうには見えるものの、そもそもの死亡が少なすぎるため差が出にくいと言えます。
となると、重要なのは「入院」のアウトカムがどこまで意義のあるものかと言うところで、どのような基準となっていたのかが気にかかるところです。仮に厚生労働省の承認が通ったとしてどのような使い所にするかはこちらも難しい話になりそうですね。
どちらの結果を見ても効果としては期待できる部分があるように思いますが、リスクとベネフィットのバランスをより詳しく知って考えることが必要です。ニュースでは「入院または死亡リスク70%減少」のみ取り沙汰されますが、今後のより詳しい情報を待ちたいところです。
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