今日は書籍紹介します。
前に行動経済学者のダン・アリエリーの本を読みましたが、今回は同じ著者が「ずる」「不正」について行動経済学の観点から書いた本を紹介します。
※2023/10/07追記:この記事を書いたあたりからすでに指摘されていたと思うのですが、著者のダン・アリエリーには研究不正があったことが指摘されています。以下の内容についても科学的に立証されたとは言い難く残念な限りです。
参考:https://www.newyorker.com/magazine/2023/10/09/they-studied-dishonesty-was-their-work-a-lie
medibook.hatenablog.com前回の記事はこちら。
さて、みなさんは「ずる」をしたことがありますでしょうか。
おつりがちょっと多かったことを言わなかったり
職場のコピー機で私用の印刷をしたり
テストでちらっとみえた他人の解答を、さも最初から分かっていたかのように書いてみたり
えーっとこれはどれも私がやったことあることなんですが汗
この本で紹介されるのは、詐欺師が組むような大がかりな嘘だけでなく、日常的に行われうる上記のような「不正」や「ずる」についてです。そして、その「ずる」がどの程度まで行われ、何がそれを助長あるいは抑制するのか、を調べた本です。何らか不正やごまかしで困っている人やそれを予防しようという人には役立つかもしれません。
筆者が本書で最初に示しているのは「ずる」をする人がもつ「つじつま合わせ仮説」というものです。これは単純に利益と損失を計算して、より利益が大きいから「ずる」という選択肢をとるのではなく、その人のなかで「利益」だけでなく「自分の道徳心」も照らし合わせたうえで合理的な言い訳を作り、自分の正当化と利益のバランスをとって「ずる」をする、ということです。
例として、筆者は盲目の人がタクシーに乗った実験を挙げています。普通の人が見知らぬ土地でタクシーに乗った場合、道をわざと遠回りして料金を高めにとられる、ということがアメリカではあります。そこで、盲目の人ならば尚更気づかないため、利益を追求するなら間違いなくタクシードライバーは「ずる」をするだろう、という前提で、目の見える人と見えない人でタクシーに数回乗り、料金を比較する実験をしてみました。結果はどうだったか。
なんとなく予想はつくと思いますが、盲目の人のほうがむしろ料金が安く済んでいたようです。これは「利益」だけでなく、「モラル」からさすがにそんな人から金をむしり取るのはやめようという判断が働いたことが分かります。つまり、不正を働くとしても人は自分の罪悪感をそれなりに照らし合わせてから行うということです。
本書ではそういった多数の実例、実験結果から、不正を行わせやすくする条件あるいは抑制する条件をあぶりだしています。自己の目的を追求しているとき、意志力が低下しているとき(要は疲れているとき)、偽物のブランドを身に着けているとき、周りの人が同じことをやっているとき、創造性が高まっているとき、、などなど。創造性が高い、というのは少し意外ですが、頭の中で言い訳を作り出すのも想像力がないとできない行為ではあって、サザエさんのカツオくんあたりを思い浮かべると確かに想像力があるゆえに言い訳を作り出して「ずる」をしている気がします。
逆に言えばこれらの条件がないときは、人が不正を起こしにくいときであり、他にも宣誓書を書く、道徳についての考えに触れる、ということも不正を起こしにくくさせる効果があるようです。これらの条件を振り返ってみると人が不正を働くときというのは比較的さまざまな条件に引きずられており、ある程度でも自分を正当化できないと不正ができない体になっているんだというのが分かります。不正行為に対しては規則でがんじがらめにして監視を強めるよりも、こうしたメカニズムの理解を進めて内面への働きかけを重視していくのが役立つかもしれません。
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