さて、前回記事ではΣの変形を用いた問題を解きました。
Σ(和の記号)を使いこなせるようになろう①【統計検定1級対策】 – 脳内ライブラリアン
同様に過去問をまた解いていきます。
式として使う武器たちはこちら。
標本平均
\[
\frac{1}{n}\sum_{i=1}^nX_i=\bar X
\]
標本平均の期待値
\[
E[\bar X]=\mu
\]
標本平均の分散
\[
V(\bar X)=V\left(\frac{1}{n}\sum_{i=1}^nX_i\right)\\=
\frac{1}{n^2}\sum_{i=1}^nV(X_i)\\=
\frac{\sigma^2}{n}
\]
標本分散
\[
\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n(X_i-\bar X)^2
\]
不偏分散
\[
\frac{1}{n-1}\sum_{i=1}^n(X_i-\bar X)^2
\]
標本平均の変形例
\[
\sum_{i=1}^nX_i=n\bar X
\]
\[
\sum_{i=1}^n(X_i-\bar X)=0
\]
例題②:統計検定1級統計数理 2015年問5
問題の内容ですが、統計検定のホームページにはしっかりと「個人のブログに過去問は載せないでください」とあるので、うちには載せません…すみません。昔の公式問題集を買うか、ネット上にあるもの(本来ダメですが)を探してみてください。
さて、2015年の問5-1をみてみます。
\( \bar{y} \) はとりあえず、和の記号をばらせば簡単に求まるので良いとします。
問題は次の \( s^2 \) です。
どうやって求めればよいか。
記載の解答の流れはどう思いつくか分からないのですが、自分で考えてみた順番に書いてみようと思います。
\( s^2 \) はそのままだと上記した和の記号による変形がうまくできないので、まず展開してみます。
\[
s^2=\frac{1}{n-1}\sum(y_i^2-2y_i\bar y+\bar y^2)
\]
ここで、 \( \sum y_i \) は既にいい感じに変形できることに気づきます。また \( \sum \bar y^2 \) というのも定数なので変形できます。
すると
\[
\frac{1}{n-1}\sum(y_i^2-2y_i\bar y+\bar y^2)\\=
\frac{1}{n-1}\left\{\sum y_i^2-\sum 2y_i\bar y+\sum\bar y^2\right\}\\=
\frac{1}{n-1}\left\{\sum y_i^2-2n\bar y^2+n\bar y^2\right\}\\=
\frac{1}{n-1}\left\{\sum y_i^2-n\bar y^2\right\}
\]
すごくすっきりしました。
ここで \( \bar y^2 \) はすでに問の前半で求めているので問題なく、問題なのはこれです。
\[
\sum y_i^2
\]
これをどうやって求めるかといえば、2乗の項の和が出ているのは \( s_1^2 \) と \( s_2^2 \) ですので、こいつらを足し合わせれば作れそうです。
というわけで展開しつつ足し合わせると
\[
(n_1-1)s_1+(n_2-1)s_2=\sum y_i^2+\sum_{i=1}^{n_1}(\bar{y_1}^2-2y_i\bar y_1)+\sum_{i=n_1+1}^{n}((\bar{y_2}^2-2y_i\bar y_2)\\=
\sum y_i^2-n_1\bar y_1^2-n_2\bar y_2^2
\]
となります。
変形すると
\[
\sum y_i^2=(n_1-1)s_1+(n_2-1)s_2+n_1\bar y_1^2+n_2\bar y_2^2
\]
となるので、これを最初の式に代入して、 \( \bar y \) も代入すれば答えが出ます。
例題③:現代数理統計学の基礎 第5章 問20(追加問題)
愛用している『現代数理統計学の基礎』の問題です。
追加問題は本ではなく、公式サイト上に問題がありますので、こちらからご覧ください。
p.14の下の方に問題があります。
(1)を見ていきます。
まずは、そのままだとどうにもしにくいので、Σの記号を使いつつ展開を狙っていきます。
\[
E[(\bar X-\mu)^3]=E\left[\left(\frac{1}{n}\sum X_i-\sum\frac{1}{n}\mu\right)^3\right]\\=
\frac{1}{n^3}E\left[\left\{\sum(X_i-\mu)\right\}^3\right]\]
ここで、いったん止めます。大事なのはこの形です。
\[
E\left[\sum(X_i-\mu)\right]\]
何故かと言えばこれを変形すると
\[
E\left[\sum(X_i-\mu)\right]=E[n\bar X-n\mu]\\=nE[\bar X]-n\mu\\=n\mu-n\mu\\=0
\]
となるからです。
これを利用すると上記の3乗の式も結構0になって消えてしまうことが分かります。
つまり
\[
\left\{\sum(X_i-\mu)\right\}^3
\]
を分解してみると
\[
\{(X_1-\mu)+(X_2-\mu)+…+(X_n-\mu)\} \\
\times \{(X_1-\mu)+(X_2-\mu)+…+(X_n-\mu)\} \\
\times \{(X_1-\mu)+(X_2-\mu)+…+(X_n-\mu)\}
\]
となるわけですが、同じ組み合わせを3乗した項は残ります。
しかし、2乗×1乗の組み合わせや1乗ずつの組み合わせは期待値をとると上記の理由ですべて0になって消えます。
例えば
\[
E[(X_1-\mu)(X_1-\mu)(X_2-\mu)]=0
\]
です。
よって
\[
\frac{1}{n^3}E\left[\left\{\sum(X_i-\mu)\right\}^3\right]\\=
\frac{1}{n^3}\sum E[(X_i-\mu)^3]\\=
\frac{\mu_3}{n^2}
\]
となります。
ちなみに公式の解答の(1)の初めに \( (X_i-\mu)^2 \) とありますが、多分この2乗は誤植で不要だと思われます。
(2)も同じ調子で0になることを使えば解けます。
2017年の統計検定1級、問1も同様の原理ですので、3乗以上の期待値を計算する際には役立つテクニックです。
参考文献:
現代数理統計学の基礎 (共立講座 数学の魅力)(達也, 久保川, 2017年)
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