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読書が好きな人にこそ勧めたい『難解な本を読む技術』

「分かったつもり」になっているけど、実はよくわからない本や概念ってないでしょうか。

 

本を沢山読むことの良さを語った本や、読書の意味/記憶術/速読の方法なんて本はたくさんありますが、難しい本を理解する方法について説いた本は少ないです。

 

先日買って個人的にはクリーンヒットした読書術の本を紹介します。こちらです。

読書が好きな人、読書が少しずつ好きになってきた人、難解な文献を読む必要がある人にぜひオススメしたいです。

 

目次:

 

既存の読書術本の問題点

以前に読書術の本を紹介する記事を一度書きました。

読書術について書かれた本をまとめてみる① – 脳内ライブラリアン

 

結局のところお勧めしたのは佐藤優著『読書の技法』でしたが、なぜこの本を一番勧めたかったかというと、その理由のひとつとして、熟読の仕方をきちんと説明しているということにあります。

 

狭く深い専門的な知識の掘り下げ方は入口を浅くみるよりも当然難しいです。ただ、その分学ぶ価値は大きい。

 

以前紹介したDaigoさんの本にせよ、樺沢紫苑の本にせよ、対象者を幅広くしている分(ゆえに良く売れるのだと思いますが)知識を掘り下げる方法という点ではどうしても甘いと思うのです。どちらの方も専門的な書籍を読んでいるでしょうし、本人は難しいものも読めるのだとは思いますが、間口を広くとっている分そこの説明は薄いように感じます。

 

しょっちゅう出されては消えていくビジネス書なども時には大いに学ぶところがあるのですが、大きな価値を持ちうるのはもっと専門的な文献であったり、名著と言われる哲学書でもあると思うのです。そうした本をキチンと読む方法を紹介するのが今回紹介する『難解な本を読む技術』です。

 

自分が読みたい哲学の本を題材として書かれている本ですが、それ以外でも、文系の要素を含む専門的な分野を独学で学ぶ必要があるときには役立つと思います。

 

本のタイプを分類する

まずこの本では本のタイプを、①「開いている」「閉じている」、②「登山型」「ハイキング型」、③「外部参照あり」「なし」、の3点で分類します。その理由としては分かっていたほうが理解の速度が明らかに速くなるからです。

 

①「開いている」「閉じている」

本には筆者の自己主張が明確ではなく、読者に考えさせる「開いている本」と自己主張が明確であり、そのための論理や根拠が並べられている「閉じている本」があります。

 

理系の文献や論文なんかは基本的に「閉じている」と言えますし、よく売られているビジネス書も基本的には「閉じている本」が多いと思います。ただ、例えば色々な方法論を紹介して、結論は出さないような本(『~大全』とか)は「開いている本」と言えます。

 

「開いている本」で結論や自己主張を探し出そうとしたり、一貫した論理を紡ごうとするのは時間の無駄になります。そのことに気づくことが大事です。『~大全』みたいなのが、結論はない本だよ、っていうのは読む側にも分かりやすいのですが、初見で気づきにくくて難しいのはやはり哲学書でしょう。ミシェル・フーコーなんかは代表的な「開いている本」なようです。

 

②「登山型」「ハイキング型」

最初の方から論理的に根拠や知識の積み上げを行っていくのが「登山型」、いろんな要素を紹介していく形なのが「ハイキング型」です。

 

例を出して言えば数学の参考書や英文法の本というのは大部分が「登山型」と言えるかもしれません。前の事項が分かってないと次の章へ進んでいけません。

 

それに対して「ハイキング型」は章ごとに風景を楽しむような感じでどこから入っても読むことができます。事典なんかは明らかにこちらですね。通読するものではありません。

 

本の中である一つの章ごとに知識の積み上げが必要である、小さな山が連なっているような「登山型」というのもあるので注意が必要です。

 

③「外部参照あり」「なし」

これはその本の中で知識が完結しているかどうかを指します。他の本などから知識や用語の解説が必要なものは「外部参照あり」、そうでないものは「外部参照なし」となります。

 

細かいことを言えば「外部参照の全くない本」なんてものはないと思いますが、その人の持っている知識によって外部参照が必要なレベルは異なると思います。

 

例えば、「統計学」の本を読むにあたって、微分積分・確率論といった知識は先だって必要です。理系の分野は基本的に知識の積み重ねが必須なので、その意味では「外部参照あり」となります。

 

「哲学」においてもその分野ごとの基本的知識が要求されることは多いと思います。例えば「実存主義」のサルトルの本を読もうとしたときに、ハイデガーの使う「存在」の意味(辞書的な定義とは異なる)を、知っておかないとちんぷんかんぷんになってしまいます。

 

これらの分類をすることが大切なのは、本の読み方に自覚的になることです。それによって後から「本を読む」段階に入ったときに、効率に大きく影響が出てきます。

 

本を読む準備を進める

筆者はこの読む準備にはしっかり時間をかけて必要な本を選び抜くことをお勧めしています。「棚見」といって本屋でその分野の本の棚をざっとみて、目次を沢山みていくことで、知りたい分野の全体像を構成することを勧めています。そのうえで、読みたい本を厳選すべき、としています。

 

目的に沿わない本や、意味が全く理解できない本を読むことは無駄どころか余計な時間がかかる、と言うことをたびたび強調しています。ソフトウェアエンジニアの言葉を借りて「ゴミが入ればゴミが出る」とまで言っています。

 

これは確かに大事なことで、佐藤優『読書の技法』*1でも触れられていましたが、人が本を読める数というのはかなり限られています。月10冊ペースで本を読んだとしても、年間120冊で、30年で3600冊。これが中学校の図書館くらいと言われています。統計局の報告*2によれば、書籍の新刊点数は年間約75000冊とされていますので、人生の大部分を割いても読めるのは年間に出る書籍の20分の1以下です。

 

こういわれると何時間もかかるきちんとした読書をしようと思ったらよくよく選ばないといけない、と言う意味が良くわかるのではないでしょうか。

 

実際に本を読み進める

本書では通読→詳細読みという流れと読書ノートの作成を推奨しています。

 

まず、1回目に通読することで、知識の外形(全体の俯瞰図と流れ)や上で述べた本のタイプ、用語分からない箇所、難解な部分と簡単な部分などをうまく整理することができます。この際に本の目次を書き写した読書ノートを使ってメモしながら通読することで上記のポイントがうまく整理できる、としています。

 

通読の仕方も、本のボリュームとタイプによって少し分けており、章毎に短く区切って戻る場合と全部一気に読んでしまう場合、理解できなくなったら数ページごとに戻る場合があります。「登山型」の場合は特に短めにして戻ることを勧めています。

 

こうして(範囲は色々ですが)通読をしたら次に詳細読みに入ります。論理関係や用語の意味をきちんと洗いだし、読書ノートにメモしていきます。この段階で初めて本の思想を理解できるところへ入ります。

 

この段階で分からない部分というのは以下の問題のどれかだと、本書では指摘しています。

①用語の理解が不十分

②論理関係の把握が不十分

③問題の理解が不十分

④図にできないと理解が不十分

 

何度も読み直したり、「外部参照のある」本は他の書籍を読み進めるもしくはネットで調べたりすることで解決していきます。ただ、本当に難解な本は何年たってもうまく理解できないことはあり、それはザラだと言われています。

 

ただ、ここまでして理解できたと言える知識は、現実に使うことのできるものと十分に言うことができそうです。

 

雑感

著者も現代思想を専門にした本をいくつか書いており、基本的には哲学書を読むことを前提としていますが、それ以外の分野にも十分に応用が効く話です。

 

本書の後半では具体的な思想家の本の読み方(フーコー、ラカン、デリダなど難解なものを多く含む)と実際の読書ノートの例も載せてあるので、これも参考になります。

 

今まで自分もそれなりに本を読んできて、「なんとなく気になったから、とりあえず読んでみる」という段階は卒業して「現実生活に活かす読書」にスキルアップしていきたいところです。そういった方に本書は役立つと思います。

 

参考文献:

*1

*2統計局ホームページ/日本の統計 2020−第26章 文化

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