実際の医学論文から統計を学んでみるⅣ -欠測データの扱い/ LOCF法-

前回メタアナリシスの欠測データの問題点について書きましたが、RCTの論文で実際に欠測データがどうなっているのか、例を一つ見てみます。「欠測データがどんなもので、どう処理されているのか」に注意することは結果の解釈に大きな影響があると思います。

 

欠測データについての記事はこちら

medibook.hatenablog.com

 

病院内の抄読会でたまたま読んで気になったのでこちらのstudyをみることにします。

Eculizumab in Aquaporin-4–Positive Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder

 

エクリズマブによる視神経脊髄炎(NMOSD)の再発予防の試験で、第3期臨床試験ですね。

 

目次:

 

試験の概要

試験の大枠としては多施設共同の二重盲検2:1ランダム割り付け、プラセボ対照試験です。

 

まず内容をさらにPICOに沿って大まかに確認してみますと(詳細が気になる方は論文みて頂きたいですが)

 

P:

2006,2007年のNMOSD診断基準にあてはまる患者、EDSS 7以下、AQP-4抗体陽性、通常の治療で用いる免疫抑制薬は用量安定していれば使われていても良い、計143名

 

I:

エクリズマブ900mgを週1回、4週間投与、その後は1200mgを2週に1回投与

 

C:

プラセボ

 

O:

臨床医師が判断した再発

→88人集まった時点で、臨床判断だと施設間のばらつきが出ることから、独立した評価委員会による再発の判断に主要エンドポイントが変更(!?)

 

と言う感じです。試験途中でのアウトカムの変更というのはちょっと注意すべきポイントかと思いますが、、、。また後述します。

 

欠測データの扱い/LOCF法

結局のところ、エクリズマブ群96名、プラセボ群47名の割り付けとなっています。

 

このうちFigure1によるとエクリズマブ群は16/96名(17%)がアウトカム以外の要因で脱落、プラセボ群3/47名(6%)が同様に脱落しています。

 

この論文は丁寧に欠測データの扱いの方法自体は書いてあるのですが、last-observation-carried-forward method(LOCF法)と呼ばれる方法になります。

 

最後のフォローアップ時の状態をアウトカムとして代入するということになります。さて、これが果たして良いのでしょうか。

 

介入群における脱落の原因をみていくと12名は撤回で3名はフォローアップできなくなり、1名は死亡となっています。12名の要因はsupplementary appendixにしか書いていないのですが、副作用が出ていた人は多い他、転居、経済的な理由などが並びます。

 

副作用なども絡んでいることから少なくとも今回の要因は、欠測データの種類のうちMCAR(完全にランダムな欠測)ではありません。また、MCARだとしたら正しい解析方法はcomplete-case analysisです。副作用出現頻度も多いですが、それが原因で継続できなくなったとするなら、そのまま通常の治療のみでフォローして、再発があったらエクリズマブ群でカウントするやり方(普通のITT解析)のほうがリアルワールドデータに近いのではないでしょうか。

 

欠測データの扱いに関する本*1では全米学術研究会議報告書として統計データの扱いについての基準の話に触れていますが、その中でも以下のような記載があります。

 

Last observation carried forward(LOCF)やbaseline observation carried forward(BOCF)などの単一補完法は、それらの背景にある理論的仮定が科学的に正当化されない場合には、主要な解析方法として用いられるべきではない。(*1より引用)

 

そこに十分な理論的仮定はないですし、正直言ってここでなぜ単一補完法がされているのかはよく分かりません。離脱した患者群の方がエクリズマブもない分、明らかに再発するリスクがあると思われます。

 

ただ、打ち切りになった12名の患者もフォロー期間はそれなりに長かった(観察期間は106-835日)ので、まだそこは良かったところでしょうか。

 

結果のデータを見直してみる

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(*2より引用)

 

一番主要なデータであるカプランマイヤー曲線がこちらになるわけですが、17%もの欠測データ(それなりに再発率がある)があり、それをLOCF法で解釈しているとなると、正直ここまでの差はさすがに言いすぎなのではないかと感じてしまいます。

 

加えて、最初に書いたように主要なエンドポイントを途中で変更していることも、この図の信頼性を損ねるんじゃないかと思います。途中の時点でもともとのエンドポイントで「再発」と判断された患者は打ち切り扱いになっており、それはおそらくここに「再発」としては扱われていないように思います。

 

もともとのエンドポイントで感度分析を行ったグラフはsupplementary appendixにありました。

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(*2より引用)

 

前半で結構再発で落ちているのが分かります。確かに施設ごとのエンドポイントのばらつきは問題でしょうが、こちらのほうがまだ現実味のある結果のように見えます。これがsupplementary appendixにしか載ってないのも気になってしょうがないです。

 

まとめ

特に今回のような小規模しか組めないRCTの場合は、欠測データの扱いはより重要です。「介入群に欠測が多いにも関わらず単一補完法をとっている」部分は差し引いて結果の解釈をしないといけないですね。2週間に1回の点滴という患者さんの負担も大きい治療であり、かつ滅茶苦茶に高価な治療なので、面倒だとしても、appendixまで追って、ちゃんと治療効果を解釈する必要があると思います。

 

(2021.06.28追記 医学論文の読み方関係の記事はこちらにまとめました) 

medibook.hatenablog.com

 

引用文献:

*1 

*2 Pittock, Sean J., et al. “Eculizumab in aquaporin-4–positive neuromyelitis optica spectrum disorder.” New England Journal of Medicine 381.7 (2019): 614-625.

 

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