(上記動画のスクリプトを元に再構成したブログ版です)
「分かりやすいスライド作成・プレゼンテーションを学ぶ」をテーマに読書を進めています。
今回紹介するのは「プレゼンテーションZEN」です。パワーポイントのプレゼンの中でかなり有名な本だと思いますが、これ正直初めてみたときにはアカデミアにいる人には全く役に立たないんじゃないかと思ってました。
というのも、ここで出てくるスライドというのが「写真」プラス「シンプルなテキスト」というこんな感じのものばかりなんですね。こんなの学会発表や症例報告で出せるわけないと思っていました。「TEDじゃねえんだよ!」とお叱りを受けてしまいます。なので、書店でちらっとみた時も自分には全く無関係なものと考えて、そっと閉じていました。しかしながら、活かすべきなのはここに出てくるようなスライドそのものではなく、根底にある考え方や指針だと感じたので、今回紹介してみることにしました。
目次
ガイ・カワサキによる序文
INTRODUCTION イントロダクション
今日のプレゼンテーション
PREPARATION 準備
創造性と制約
アナログ式に計画を練ろう
ストーリーを作り上げる
DESIGN デザイン
シンプルであることの大切さ
プレゼンテーションのデザイン:原則とテクニック
サンプルビジュアル:画像とテキスト
DELIVERY 実施
完全にその場に集中すること
聴衆と心を通い合わせる
聴衆をプレゼンテーションに引き込む
THE NEXT STEP 次のステップ
長い旅が始まる
さて、目次から眺めてみますと、プレゼンの準備からデザイン、発表までの一連の流れをまとめ上げています。この目次をみてもわかるように、あくまであの派手なスライドのデザインというのはこの中のごく一部なんですね。造るまでの準備や発表の仕方も同じく重要な要素であることが目次からも読み取れます。
オススメポイントとオススメしにくいポイント
では、この本のおすすめポイントです。それは「プレゼンを行う上での哲学を学べる」という点です。哲学というと仰々しいですが、要するにプレゼンを行う上での、大きな指針や思考方法を学べる、ということです。
プレゼンテーションを行う目的って「聴衆に何かを伝えて、聴衆の思考や行動を変える」ということですよね。これはアカデミアでもビジネスでも必ずそうであるはずです。そのためにはまず第一に人々の印象に残らなければいけないですし、気持ちを動かす要素がなければいけません。ありきたりな絵や読む気の起きない文章で心が動くはずはありません。そこで効果的なのがこの本で紹介されるようなシンプル、調和、美しさ、物語などの概念です。これを作り出すためにはどうすれば良いか。アイディアを出す準備段階から、デザイン、伝え方まで包括的にまとめています。
冒頭で述べたように、客観的事実を良しとするアカデミアに感情を動かすという考えは必要か、と初めは思いました。確かに、過去の背景における事実、研究の方法論や結果のデータを淡々と伝えることは大切です。しかし、背景においてどのような問題点をもつか、考察としてどのように主張を導き出しているか、結果として何を伝えたいか、そういった場面では、聴衆の心を動かして何かを伝える必要があるのではないでしょうか。もちろん過度に個人の物語や感情を取り入れるのはそぐわないと思いますが、バランスを考えれば、アカデミアでも応用できる場面は十分あると思います。
また、この本では人の心を動かすための図や画像、感情を使った手法を多くの本から取り入れており、説得力を増すものとなっています。特にこのデザインを重視した思考法というのが、この本の出版開始時期である2000年代台後半からかなり盛んになっていたようです。デザイン思考という用語もこのころから有名になっていますね。ベストセラーとなったダニエル・ピンク「ハイ・コンセプト」やチップ・ハース「アイデアのちから」が要約された形で取り込まれており、良いプレゼンに必要なデザインに関する概念をコンパクトにまとめてあります。これらの書籍は2010年代の日本のビジネス書でもよく引用されており、影響力のある重要な書籍が多く盛り込まれていると言えます。
オススメしにくいポイントですが、載っている具体例に囚われすぎる危険性がある、ということです。
あまりにも綺麗でシンプルなスライドが多いので、この本を読むと思わずそれに似せたくなるのですが、あくまで聴衆のことを考えた上で選択をしなければいけません。例えば、本書の中でグラフを示した2枚のスライド例があるのですが、どちらが正解でしょうか?
思わずシンプルな絵柄の下の図であれば良いのかと思ってしまいます。しかし、本書内では、感情的要素に訴える必要が強いなら上を、そうではなく単純に事実を伝えたい場合は下を選ぶように指示しています。つまり、答えは一つではないんです。
綺麗でシンプルなスライドのイメージがどうしても付き纏ってしまいますが、根本的に大切なのは聴衆や目的に適した形式を選ぶことです。その答えは基本的にこの具体例の中にはありません。いくら本書のスライドが綺麗だからと言ってアカデミアの発表において突拍子もないスライドを作ると聴衆は混乱します。見た目の良いスライドのイメージに引っ張られて、本当に必要なものが何か、考えることを忘れては危険だと思います。安易に真似をする危険がある、と言う点は注意すべきでしょう。
まとめ
まとめですが、ただの派手なデザインだけではなくプレゼンに必要な哲学を学べる一冊です。聴衆に何が必要かはここで述べられる原則を元に自分の頭で考えることが大事です。
この本の立ち位置ですが、実践例はあるものの、正直普段の環境によってやや現実的でない側面も多いので、理論重視の側に寄っている、と考えています。背景知識は特別いりませんが、この本の言っていることから適切なプレゼンを生み出すには、聴衆が何を求めているのか、ある程度の実践的な経験が必要です。その意味では完全な入門者向きとは言い難い側面があるかと思います。
ちなみに、この本に非常に類似した本としてナンシー・デュアルテの「スライドロジー」という本があります。互いに影響を及ぼしあっており、こちらの書籍でも分かりやすいプレゼンにおける骨子を十二分に学べます。こちらの本では「ZEN」でみられるような日本の美学や、他分野の例え話などのエピソードはありませんので、ビジュアルが主体となり全体の文章量は少なくおさまっています。「ZEN」の癖の強さがどうも苦手という人はスライドロジーを類書としてオススメします。
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