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非認知スキルに着目、幼児~小学生の育児・教育に役立つ本5選

我が家には小学生(男)、幼児(女)の二人の子どもがおり、現在子育て真っ最中です。乳幼児だった頃に比べ、できることも増えて成長をしみじみと感じることが多い一方、できないことがついつい気になってしまい、声を荒げることもしばしばあります。兄弟げんかやお菓子ばかり食べてごはんを食べない(手間をかけた料理だとなお悲しい)、外出のたびに物を買ってとせがむ、などなど、きっとどのご家庭でもありがちな悩みがなかなか尽きません。小学生になったことで勉学面も今後どうなるのか気になってしまいます。

なんでも解決できる手段はないにしても、せめてどういう方向性をもって接していけばよいのか分かれば、、、ということで、育児・教育の指針となりそうな入門的書籍を複数冊読み漁ってみました。良いと感じた内容と個人的意見を総合的にまとめつつ、書籍の紹介をしていきます。

子どもにとっての幸せな人生を親は予測できない

子どもに幸せな人生あるいは良い人生を歩んでほしい、というのは親にとって普遍的な願いです。では、そんなことを保証する方法があるか、というと当然そんなものはありません。なぜかといえば、そもそも「幸せ」が何なのかという定義の問題があります。

何を幸せと感じるのかは少なくとも人や時代、環境によって違います。子どもの人生は通常親元から離れてからが長いです。子ども自身の好みや人間関係、経験することによって幸せな良い人生というのはどういうものかは異なるでしょう。そうなると、子どもにとって幸せな人生は自分自身でみつけるしかありません。親が保証することはできないわけです。

それでも、親の観点をもって高収入や就職に役立つスキルを想定し、子どもに少しでも良い人生を歩ませようとするための早期教育は過熱しています。英語、プログラミング、運動などなどスマホのアプリから教室まで驚くほど多様な教育プログラムがあります(うちもすでに結構やってます、、、)。しかし、世間一般にはそのスキルが役に立つと言われていても、それが本当に自分の子どものためになるかは分からないわけです。自分が子どものころにやっていた習い事が良かったものもあれば、特に何の役にも立っていないように思われるものもあるのと同じですね。

実際、今後子どもが歩むであろう時代や環境の変化をすべて予測できるかというと、それは現実的ではありません。自分の人生ですら今後どうして良いか分からないのに、子どもの人生の今後を予測することなんて不可能でしょう。では、何を用意してあげることができるのだろうか、というモチベーションで本を読んでみました。

非認知スキルと科学的エビデンス

実際のところ、英才教育と言われて想定されるような知識を詰め込む早期教育は否定的な意見が多く聞かれます。単に学力だけでは就職、収入、健康などの将来的な指標が十分予測できないようです。具体的な知識を詰め込んだからといってその子が幸せな人生を歩めるかというとそうとは限りません。それよりも必要に応じて柔軟に問題を解決できる能力や人と協力する能力が大事であるといえます。

そこでOECD(経済協力開発機構)など国際的に教育に携わる機関で取りざたされているのが社会性や感情に関するスキルや非認知スキルと言われる能力です。読み書き算数という認知スキルとは区別され、異なるものとされています。これこそが将来的に子どもの人生に良い影響を与える因子だとして、発達心理学、認知心理学や社会学、神経科学、行動分析学、教育学などの分野の研究が蓄積されています。

特にエビデンスの集積結果として教育関連の書籍でよく触れられているのはOECDのレポートです(1)。3年おきに行われる国際的な学力調査PISAもOECDによるもので、毎回大きく報道されるためご存じの方も多いと思います。2022年は日本の成績が大きく向上しており、好意的に評価されています。

これらのスキルの分かりやすい例としてBig fiveと呼ばれる相互に独立した特性が以下にまとめられています。

extraversion(外向性)
agreeableness(協調性)
conscientiousness(誠実性)
emotional stability(精神安定性)
openness to experience(開放性)

何となくイメージが沸くでしょうか。実際はこれ以外のスキルも含められることがあり、明確な基準はまだ決まっていないようです(2)。ただ、個人的に思うのは、なかなかこうした研究のエビデンスを育児に適用するには、うのみにしにくい点もあるように思います。

一つには、再現性の危機と呼ばれる問題です。心理学研究が抱える問題点により、「成長マインドセット」のように再現性が得られない研究に基づいてしまっているケースがあることが挙げられます。「成長マインドセット」は心理学者キャロル・S・ドゥエックの本が引き金となって広く知れ渡っている内容で、今でも多くの育児本で触れられています(3)。これは一般化すると学習の結果ではなく、プロセスをほめることでより学習の効果が高まる、というものです。この結果は再現性に乏しいものであることが現在は指摘されています(4)。

二つ目に、医学分野と同様、教育や育児は因果関係の証明が難しいことが挙げられます。例えば特定の介入因子に着目したとしても成長の過程で影響を受けるものというのは無数にあり、相互にそれぞれの因子が関係していることを踏まえると、それを補正するのは並大抵のことではないように感じられます。ただ私の専門分野ではないので、もしかしたら特定の因子による補正をすれば、意外と単純に良い結果が導き出せるという可能性もありますが、普通に考えるとそれは難しいのではないでしょうか。

三つ目に、これも医学と同様の問題ですが、個人へのエビデンスの適用の難しさです。OECDや教育分野での研究の目的は、どちらかといえば特定の個人にあてたものではなく、全体として教育の効果をいかに上げるかに集約されます。

いくつかの書籍を読んでいると感じるのですが、臨床心理士や科学ジャーナリストといった職種の方が書いた書籍ではどちらかというと個人としての親子の関係性や子どもを具体的にどうとらえるかに着目しているのに対して、教育や学校関係の職の方が書いた本では、教育全体としてエビデンスをもってどの方向性に進むべきか、という視野で書かれています。自分の子どもも全体の中の一人であることを踏まえるとどちらが正しいということはないのですが、エビデンスがあるからといって過度にその方向に育児を進める必然性はないように思いました。

例えば、上述したnon-cognitive skillsには外向性などの対人的な能力もありますが、歴史上偉大な功績をあげた著名人のなかでも対人関係に問題がある人を挙げ始めるとキリがありません。例えば、20世紀を代表する哲学者のヴィトゲンシュタインは、教師をやっていたときには父母との衝突や、生徒のえこひいき、体罰など問題が多かったようです(5)。ですが、彼の哲学的業績については誰しも文句がないものであると言えます。ちょっとこれは極端な例ですが、この指標とそこから得られるアウトカムが当人にとって望ましいものかどうかは都度考えなければいけません。

こうした意味で、研究結果をみる際には、数字はあくまで参考レベルに、事実に関しても本当に自分の子どもに当てはまるものなのかを考え、無理やり当てはめ過ぎないほうが良いと思っています。

また、先ほどのOECDのレポートにもある通りまだまだ発展段階にある研究内容で、認知スキルとの組み合わせでどう影響していくかも明確にはなっていないようです(6)。今後も引き続き動向に注目していくのが良さそうです。

書籍の紹介

というわけで認知スキルではない部分に着目した育児・教育の書籍を中心に今回は紹介していきます。非認知スキルを直接な題材として扱っているわけではないものの、そのスキルに関連したものを具体的に育児にどう落とし込むかが学べるものとなっています。それぞれ紹介していきます。

『子どもにとってよい子育て』

原題は”Good Inside”で、子どもの内面について考えるアプローチを重視した臨床心理士による書籍です。エビデンス創出の際に客観的評価に頼り勝ちな行動主義的アプローチに対して批判的で、子どもとの関係性を重視しています。子どもの行動の裏にある良心を信じて、最大限に寛容なアプローチをとりつつも、親のすべきことと子どものすべきことの線引きをしっかりして、自己表現と感情の理解、自立を促す内容となっています。自分と子どものすべきことの境界線を引く、という方法はアドラーの「課題分離」に似た面があり、なるほどと目からうろこが落ちました。前半はそれを成立させる理論を、後半は実例を紹介しています。子どもと親の関係性を重視しており、良い行動や成績などのアウトカムを重視しがちな”科学的”をうたう本と対照的なところが好感がもてます。ページ数は比較的多いですが、理論部分はそこまで長くありません。

『子どもを伸ばす言葉 実は否定している言葉』

自己肯定感を伸ばす子育ての方法を漫画で分かりやすく紹介しています。長い文章は読めない人にオススメのライトな一冊です。NGな子育て方法とOKな子育て方法を4コマ漫画で対照的に表現し、その背景となる知識を説明します。著者はフリーアナウンサーとしてNHKの育児番組に出演していた経歴から、専門家の意見を集約したものを紹介しています。分かりやすく、共感が非常にできる内容で、問題となるシチュエーションをみていると「あー、あるあるだなあ、、、」とめちゃめちゃ感じます。ただ、個々の内容について理論的な背景が深くため、うまくいかなかったときにどう考えればよいのか応用が効きにくい側面があります。漫画通りには現実なかなかいきません。

『科学的に正しい子育ての新常識』

原題は”How to raise kids who aren’t assholes(直訳:クソ野郎にならない子どもの育て方)”というなかなか刺激的なタイトルで、”科学的”を必ずしも全面に押し出したわけではありませんが、科学ジャーナリストが様々な分野の研究を調べながら自身の経験も交えつつ書いた本になります。「わがまま」「やる気」「いじめ」「嘘」「自己肯定感」などをテーマに研究の紹介をしながらどうすべきであるか論じています。基本的には子どもの感情を認め、寄り添うこと、そして他者や世間とのつながりを示してあげること、経験を通じて親と子どもが一緒に学び成長することを重視しており、単に研究を羅列しただけの内容ではありません。幼児以降の小学生~中高生にも使える内容が盛り込まれており、ネットやスマホ、性教育などにも触れられている点は他の書籍よりカバー範囲が広いと言えます。

『自律した子の育て方』

神経科学者と麹町中学校長の二人の共著というやや異色な書籍です。教育に神経科学的な考え方を盛り込んだ本となっており、いわばミクロの視点での機序とマクロの視点での実践を合わせた内容です。医学でも細胞単位での理論だけで実践が伴わないことには良い治療や診断ができないことを考えると、メカニズムを踏まえつつも実際の現場での視点が入るというのは非常に好ましいと思います。「心理的安全性」と「メタ認知」の二つを大きなテーマとして紹介しており、中学校教育の現場での話が展開されるのですが、この考え方は育児にも十分応用の効く内容であると感じました。安心感を持たせたうえで自己表現をきちんとさせて成長を促すこと、他責に走り自ら解決策を考えない人間にならないようメタ認知を推奨すること、これは確かに重要性が高いです。ただ、ミクロの視点での機序は果たして本当に現実とうまくつながる内容なのか、この本のみではいまいち繋がりが明確でない印象がありました。また別で調べたいと思います。

『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』

上述の本ではやや批判的にみられていた行動主義的アプローチを中心に小児発達科学研究所の所長をされている著者が、教育でよくみられる疑問に答えた本です。冒頭の「勉強と幸福の関係性」について述べた部分では先に述べた非認知スキルに触れています。また、行動分析学に基づき、心は扱わず、行動を評価するという姿勢が概ね一貫して取られています。「ほめる」「叱る」という行為がどんな時に問題になるのかが分かりやすく分析されており、ここまでの本とは違った視点で自分の行動を振り返るこどができます。ただ、違和感を感じたのは、思春期に関して3階建ての脳という表現が使われていたり(間脳=魚類、大脳辺縁系=爬虫類、大脳新皮質=哺乳類というイメージ)、2018年には再現性の問題が指摘されているマシュマロテストが繰り返し引用されていたり、という点です(7,8)。少し内容の土台となるエビデンスが不安になってしまうところがあります。

自分の感情や欲求を知り、コントロールすること

さて、これらの書籍を読んで、改めて認知スキルではないもので重要性を感じたのは「自分自身の感情や欲求を知り、コントロールできること」です。『子どもたちを肯定する言葉、否定する言葉』『科学的に正しい子育ての新常識』では「自己肯定感」、『子どもにとってよい子育て』では「自己表現」、『自律する子の育て方』では「メタ認知」としてそれぞれ微妙に概念は異なるものの、重要視されています。

まず、この能力をみて思ったことは「大人でもこれは十分できていないじゃん」ということです。

先日スーパーに買い物に行った帰り道、おもちゃの取り合いになり、二人の子どもが床に座り込みして泣きじゃくることがありました。外は雨、自分の手には食材の入った買い物袋、という絶望的な状況です。その時にはそれはもう沸々と怒りと絶望が沸いてきたわけですが、偶然大学時代の後輩に出会い、ハッと我に返りました笑。

本屋にも所せましとセルフコントロールやマインドフルネスの本が置いてあることを考えると、生涯にわたって学ぶべき能力であるといえるのではないでしょうか。

大人になってから学びなおせばいいじゃん、という意見もあるかもしれませんが、仕事や結婚、家事、育児と抱えているものが増えていくうちに、自分と向き合う時間は必然的に減っていきます。その時に学ぼうとしてもすでに間に合わず、心を病んでしまったり、人間関係が適切に築けなくなってしまったりする可能性が十分あるわけです。

だからこそ、子ども時代からできるだけそれができるような援助をしてあげること、そして自分がその見本を見せてあげることはとても重要だと思います(そのスーパーではできてなかったけれど)。

また、この能力はストレスの強い逆境に耐えうる上でも必要だと感じます。自身が置かれている状況とそれに対する自分の感情を把握しなくては、どういう対処をするのか決定することはできません。

医師という仕事をするうえで、特に私が専門とする脳神経内科では患者さんに非常に辛い状況を宣告する瞬間が多々あります。例えば脳梗塞であれば半身麻痺など重い後遺症が今後も続くことを告げなければいけませんし、ALSであれば長くない未来に人工呼吸器の装着や死が待っていることを伝えなければいけません。どんな人であっても落ち込むのが当然ですが、それでも自分の感情をしっかりと吐露し、なすべきことを進めていく患者さんがたくさんいます。たとえ負の感情であっても適切にそれと向き合い、すべきことを進める、というのは辛い状況にあっても生き抜くための方法となるでしょう。

自分の感情と向き合えるようにするためには、子どもの行動がいかに身勝手に見えたり、マナー違反に思えたり、長期的に良くないと思っても、強く否定せず、感情的にならないことが必要です。それによって子どもの心理的な安全性を保ち、主張を促すこと、そして落ち着いてから自分の感情を理解させる、説明させることが大事であるように思います。感情や欲求がうまく満たせないときにどうコントロールするのかは、まずそれを認識したうえで徐々に学ぶしかありません。

実際、私の家でも兄妹でおもちゃの取り合いをするのは日常茶飯事ですが、おもちゃを持っている方から私が無理に取り上げるよりも、持たせたままで少し落ち着かせてから話をすることで、すんなりおもちゃを渡してくれることがありました。内面でどう考えていたかまでは正確には分かりませんが、気持ちを認めてあげるということは思った以上に大切なのかもしれません。

今回読んだ本のなかでもう一つ、必要性が高いと感じた能力は「自分の成長のプロセスと達成感を認識させること」です。『科学的に正しい子育ての新常識』『科学的に考える正しい子育て』では「GRIT」として、『自律した子の育て方』ではこちらも「メタ認知」の一つとして推奨されています。

年齢があがるにつれて、親が見ている範囲で学習する時間はどんどん減っていきます。そんなときに、自分でどのように学習をしていくのか。できる限り教えてあげたいと思います。

今でも多くの本で触れられている話として先ほど触れた「成長マインドセット」の話があります。再現性に問題があり、科学的な効果が想定された通りではなかったとしても、「長期的にみて自身の学習を深めるためにはプロセスに着目すべきである」という点は理論的に納得できるように思います。

どのようにすれば自分の中でうまくいくのか、それを早くから自覚することは自分を高める方法を模索するうえでも役に立ちますし、結果に結びつかなかった場合でも建設的に物事を進めるという意味でも役に立ちます。

子どもに対する声のかけ方を振り返ってみると、思っている以上に固定化された観念をもって子どもの行うことを評価していることに気づかされます。すっかり正しさと間違いの大人の基準が染みついてしまい、何でもそれに沿ってコメントしてしまいます。ふと立ち止まって子どもの内面を考えて、成長のプロセスをきちんと粘り強く感じてもらうことを意識したいところです。

というわけで、ここまで育児本を読む上での問題意識、本の紹介、本から得た着想をまとめてみました。まだまだ二人の子の成長に伴って悩みも増えていくものと思いますが、その時は改めてまた本を読んでいく予定です。

今回の書籍は幼児~小学生あたりの育児全般の本がほとんどでしたので、次回は他の書籍ももう少し読み進めてみたいと思います。

紹介書籍以外の参考文献

1.OECD公式サイト

Educationに関するレポートが膨大にまとめられています
https://www.oecd.org/education

2.『非認知能力: 概念・測定と教育の可能性』

育児に直接的に役立つ書籍というわけではありませんが、ここまでで触れてきた非認知スキルについてそれぞれを掘り下げて紹介し、実証研究と教育への応用についてまとめた本です。専門書のわりに構成が分かりやすく読みやすかったです。より深く知りたい人はぜひどうぞ。

3.『成長マインドセット 「やればできる!」の研究』

4.『Science Fictions』

5.『はじめてのヴィトゲンシュタイン』

6.OECDによるWorking Papers, non-cognitive skillsに関する直近2024年のまとめです
Limitationとしてcognitive skillsとの組み合わせの研究が少ないことなどが挙げられています
https://www.oecd.org/publications/beyond-literacy-7d4fe121-en.htm

7.『バレット博士の脳科学教室7 1/2章』

脳のいわゆる”三位一体説”は誤りであることが指摘されていますが、今なお多くの本でみられている説明です。

8.””
あまりにも多く引用されていたマシュマロテストの効果が想定されていたより小さく、再現性に乏しいことを指摘した論文です。再現性の危機を象徴するものの一つです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6050075

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