2021年の統計応用(医薬生物学)問2の解答例を考えていきたいと思います。本番で選択しましたが仮説検定についてちゃんと知識が整理されておらずどうにも進めなくなってしまいました
今更復習して気づいたのですが、これは生物学的同等性試験と呼ばれるものの仮設設定と計算の話だったみたいですね。
略解が本当に略解すぎるので(笑)正しいのか若干不安な点がありますが、メモとして書いてみようと思います。誤りがあればぜひご指摘を・・・。
問題の概要と解答例
前半は複合仮説を用いたt分布の仮説検定の問題です。複合仮説というところがわかりにくさを増しています。後半は対数正規分布を交えて実際の生物学的同等性試験を模した内容です。対数正規分布は前にも出題されていましたね。
[1-1]
まずは95%信頼区間を求める問題。正規分布に従う確率変数とその不偏分散しか与えられていないので、t分布に従うとして信頼区間を書けばOKです。導出過程も問われないのでただ式を書けば良いだけです。
\(\bar X-\frac{S}{\sqrt n}t_{n-1,\frac{\alpha}{2}}, \bar X+\frac{S}{\sqrt n}t_{n-1,\frac{\alpha}{2}}\)
これでおしまいです。
[1-2]
さてここからは複合仮説における仮説検定を考える問題です。
まず一つ目の仮説から見てみます。複合仮説をそのまま考えると分かりづらいので現代数理統計学の基礎7章問4などでも取られているように、一度帰無仮説を単純仮説にして考えてみます。
\(H’_{01}:\mu=-\Delta, H_{A1}:\mu\gt-\Delta\)とすると
検定統計量Tと棄却域Rは以下のようになります。
\(T=\frac{\sqrt n(\bar X+\Delta)}{s}, R:T\gt t_{n-1,\alpha}\)
さてここで帰無仮説が本来の\(H_{01}:\mu\leq-\Delta\)だった場合に拡張します。
\(P(\frac{\sqrt n(\bar X+\Delta)}{s}\gt t_{n-1,\alpha})\\\leq P(\frac{\sqrt n(\bar X-\mu)}{s}\gt t_{n-1,\alpha})=\alpha\)
有意水準αの検定の定義は
\(supP_{H_{01}}(x\in R)=\alpha\)
ですので、上記の不等式から確認でき、検定統計量と棄却域は上記で良いことが確認できました。
もう一つの仮説についても同様に計算します。まず、検定統計量Tと棄却域Rは
\(T=\frac{\sqrt n(\bar X-\Delta)}{s}, R: T\lt -t_{n-1,\alpha}\)
となります。同様にして帰無仮説を拡張した場合
\(P(\frac{\sqrt n(\bar X-\Delta)}{s}\lt -t_{n-1,\alpha})\\\leq P(\frac{\sqrt n(\bar X-\mu)}{s}\lt -t_{n-1,\alpha})=\alpha\)
となり、有意水準αの検定であることが確認できます。
[1-3]
それぞれの帰無仮説が同時に成り立つことはなく、それぞれの帰無仮説が正しい時に各検定が棄却される確率はαなので、その和集合であるH0の有意水準αである、ということでしょうか。
*1にある生物学的同等性試験の説明にはそのようにあるので、良いのかと思いますが、公式の解答の「両方が棄却される」という意味がいまいちよく分かりません、、、。わかる方がいたらご教示ください。
[2-1]
対数正規分布を用いた問題です。以前にも同様の問題が出ています。
試験製剤群の中央値を\(m^T\)とおいて式を立ててみていきます。mは中央値であることから、以下の式を満たします。
\(P(m^T\leq Y^T)=\frac{1}{2}\)
あとは左辺を変形していきます。
\(P(m^T\leq Y^T)=P(m^T\leq e{X_i^T})\\=P(logm^T\leq X_i^T)\\=\frac{1}{2}\)
となります。ここで、Xは正規分布に従うことから
\(logm^T=\mu_T\\m^T=e^{\mu_T}\)
となります。同様にして
\(m^s=e^{\mu_S}\)
となるので、答えは
\(log\frac{e^{\mu_T}}{e^{\mu_S}}=\mu_T-\mu_S\)
と導き出されます。
[2-2]
さて最後は生物学的同等性を判断する問題です。[1-3]の仮説検定を用いて、帰無仮説が棄却されるかどうか判断します。
帰無仮説それぞれについてみても良いのですが、信頼区間が仮説検定の裏返しであることを利用して、信頼区間が対立仮説の範囲内に収まるかどうかを見る方がわかりやすいため、公式の解答もそのようになっているかと思います。
まず対立仮説の範囲は\(-\Delta\leq\mu\leq\Delta\)なので
-0.223~0.223
となります。
信頼区間は最初の問題で導出したものを利用すれば
-0.201~0.001(有効数字3桁で四捨五入)
となるので、対立仮説の範囲内に収まっており、帰無仮説は棄却されます。帰無仮説は「デルタの絶対値が大きい」=「試験製剤と標準製剤が同等ではない」なので同等ではないことが否定されて、同等であるという結論が導き出されました。
参考文献
*1 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjb/15/2/15_2_111/_pdf/-char/en
6枚目に「帰無仮説はどちらか一方しか存在し得ない」という話が載っています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt1970/31/6/31_6_715/_pdf
生物学的同等性試験について書かれた拾い物のPDFです。
ご解説ありがとうございます。大変助かっております。
[1-3]ですが、以下の21ページのような説明を見つけました。
https://web.njit.edu/~wguo/Math654_2012/Math654_Lecture%207_2012.pdf
第1種の過誤確率=Pr(reject H0)
=Pr(reject H01 and H1) (※両方とも棄却されるとき)
< min (Pr(reject H01), Pr(reject H02))
< min (alpha, alpha) = alpha
なるほど、ありがとうございます!スライド20-21のintersection-union testingのところでしょうか。略解には「両方を棄却する確率と等しい」というところまでが書いてあって、結局のところその確率の上限としてはαになるよ、ということですね。
ちなみに、書いていただいた式の2行目はH1ではなくH02の誤りでしょうか?
ありがとうございます。申し訳ありません、ご指摘のとおり、H02の誤りでした。
第1種の過誤確率=Pr(reject H0)
=Pr(reject H01 and H02) (※両方とも棄却されるとき)
< min (Pr(reject H01), Pr(reject H02))
< min (alpha, alpha) = alpha