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コロナウイルスの抗体検査で今後注目したいこと・注意したいこと

昨日のニュースでコロナウイルスの感染状況把握のため、抗体検査を1万人規模で実施していくという報道がされました。

 

www3.nhk.or.jp

 

感染状況の把握には役立つと思うのですが、数値の解釈や抗体検査そのものについて知っておきたいこと、注目するべき点を普通の医師でわかるレベルで、以下の項目に分けてちょっと考えてみようと思います。

 

 

①誰を対象とするか

 

まず対象者を誰にするのか。

 

今回の検査は住民の中から1万人規模で選出して行う、とされています。完全にランダムなのかどうかまではまだよくわかりません。

 

住民全てを検査する、というのは当然不可能なので、一部の人を抽出して検査を行い、全体の抗体陽性率を推測するわけです。これは推測統計学の基本ですが住民全体を母集団と言い、検査対象を標本と言います。 以下が推測の流れです。

 

母集団→標本抽出

 

標本の結果→母集団の推定

 

つまり、もともとどこを対象にするかで推定できる母集団が変わります。今回の場合、対象者をどこから選別してくるかによるので、例えば対象者を20-50歳代としたら推測できるのはその年齢層の抗体陽性率になるわけです。現在かなり厳重に出入りを管理している老人保健施設の方や感染リスクの高い医療関係者、外出自粛を守りやすい高齢者層などどこをどう含むかで結構抗体の陽性率にはばらつきが出ることが予想されます。

 

そもそも病気などで自宅から出られない人や施設で外出が制限される人は除外されるでしょうし、母集団は本当の意味でのすべての住民にはならないと思われます。どこまでに絞るかがまず注目されるところです。

 

②結果をどう解釈するか

次に出た結果の解釈ですが、ウイルスと抗体の特徴については以前の記事でまとめられた論文を紹介しました。

SARS-CoV-2のPCRと抗体検査について – 脳内ライブラリアン

 

PCRは発症早期から比較的陽性となる検査ですが、抗体というのはウイルスに感染したときに体が作り出す免疫の機能をもったタンパク質のことを言います。

 

感染→抗体産生→回復、という流れであるため、陽性になるまでには感染から時間がかかるのが特徴です。IgM抗体というのはその中でも比較的早期に産生されるものですが、長期には続きません。IgG抗体というのはIgMより遅いですが、長期間持続します。

 

元の論文からFigureだけでもみてみるとイメージがつかみやすいです。

紫の点線がIgM抗体の産生推移、緑の点線がIgG抗体の産生推移です。

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2765837

 

ここで注意が必要なのは「既感染=抗体陽性」とも言い切れず、「感染性がある=抗体陽性」とも言い切れず、「抗体陽性=感染しない」とも言い切れないということです。

 

大本から考えてみると今回の疫学調査で知りたいことって何でしょうか。

 

感染性のあるコロナウイルス感染者がどのくらい街中にうようよしているのか。また、すでに感染して免疫が成り立っているため、かからない人がどのくらいいるのか、ではないでしょうか。

 

これを知ろうと思うと抗体陽性というだけでは推測できない要素がいくつもあることに気づきます。

 

まず抗体はどれぐらいつくのか?

基本的に感染後の抗体は他の疾患でもそうですが100%つくとは言えません。特に免疫機能が落ちている人などではつかないこともあります。

 

次に、いつまでつくのか?

先ほどの論文のfigureをみてもわかりますが、緑の点線も徐々に下がっているのが分かりますでしょうか。抗体は永続的ではありません。

 

つまり、上の二つの理由から「既感染=抗体陽性」は完全にイコールではありません。ただ、何%くらいが感染したら陽性になり、どのくらいの日数で抗体がなくなるのかが例えば他のウイルスの感染の場合(インフルなど)で推測できれば良いのかと思われます。

 

続いて抗体陽性と感染性との関連はどうか?

抗体陽性になっている人というのはある程度日数が経過しています。検査するのはさすがにおそらく健常者でしょうから、基本的には感染から時間が経っており感染性はないものと考えられます。市中にどのくらい感染性がある人がいるかは今回の検査ではわからないと思われます。

 

そして、抗体陽性は感染しないのかどうか?

抗体陽性であれば当然再感染はしにくいと思われますが、実際のところどこまで感染しないのかはわかりません。ここはかなり難しい問題で、インフルエンザのように変異したりするようなら特に大きな問題となります。

 

③結果をどう伝えるか

上述の通り、今回の検査では母集団の問題、抗体陽性と既感染の相関度合、再感染と抗体陽性の相関度合と推測しなければいけないデータが多く含まれます。すでに明らかとなっているデータが出ていれば教えていただきたいのですが、おそらく大規模研究でこれを正確に出しているところはないと思いますので、推測する要素が増えれば増えるほど結果の解釈にはずれが生じていきます。

 

最終的な結果をどう伝えるかが国民の行動に影響を大きく与えます。普通に生活している人にとって数字の解釈は難しい問題で、例えば10000人に1人が抗体陽性だった、と言われて、「10000人に1人なら自分とはまず関係しないでしょ」と自己解釈することは危険です。それぞれ推測すべき部分を加味したうえで、その結果を専門家が解釈したものを聞くべきだと思いますので、数値だけをとらえることはぜひ避けてほしいです。

 

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