2日前にイスラエルから興味深い論文がJAMAに出ていたのでご紹介します。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2766182
コロナウイルス感染とBCGワクチンとの関連についてです。BCGワクチン接種が義務化されている国などで感染者数が少ないのではないかという仮説から有効性が昨今検討されています。ただ、難しいのは国ごとにあまりにも感染状況が異なるため、比較検討できないことが一つの問題です。
そこでこのイスラエルの論文が面白いのは、偶発的に生じたBCGワクチン接種群vsそうでない群で比較している点です。こうした比較群が設置しにくい研究では偶発的な状況を生かすことは上手くできれば非常に有用です。
今回はどのような状況を生かしたかというと、イスラエルでは国の政策で1955年〜1982年までBCGワクチン接種を推奨しており、90%以上の接種率を達していました。それを(恐らくは国内の結核感染が減ったためでしょうか?)1982年からは結核の罹患率が高い国からの移民のみ、BCG接種をする方針に変えています。
そうすると1982年を境にBCG接種者と非接種者が分かれることになります。まさに偶発的な状況です。
ただ、年齢によって罹患率が異なる可能性が高いため、この研究では1982年以前3年間に出生した人と以後3年間に出生した人を比較しています。年齢としては39〜41歳と35〜37歳(38歳の人は以降期)を比較していることになります。
コロナウイルスの感染についてはPCR検査陽性を判定基準とし、カイ二乗検定で二つの世代の陽性率の有意差を出しています。
結果としては
39〜41歳 3064名 陽性率 11.7%
35〜37歳 2869名 陽性率 10.4%
よって差は1.3%(95%信頼区間-0.3〜2.9%, p=0.09)で有意差なしという結果となりました。
なお、この中で死亡者はなく、人工呼吸器/集中治療室管理となったのは両群で1名ずつでした。
つまり、感染しやすさに関しての差はなかったという結果です。重症化の有無は数が少なすぎてこの年齢だと比較は困難でしょう。
以上の結果を踏まえるとこの論文は感染予防に関してBCGワクチンの有効性には否定的な結論となりますが、上述のように重症化との関係はまだ何とも言えないことと、あくまで一部の年代に絞ったものであることに注意が必要です。
JAMAのページのコメント欄に寄せられた意見として、BCGワクチンをうって何十年と経った人ではなく(免疫が落ちている可能性がある)、うってもっと早期の人でないと有効性について論じることができない、とされています。
しかしそもそも有効性があるかも、という仮説がBCG接種国とそうでない国の比較から出てきたものなので、「接種直後に免疫がある」という理論が成り立つなら、接種国の若年者で感染率が明らかに低いという現象と非接種国ではそうではないという現象が見られるべきだと思うのですが…。
少なくともBCGだけで現状を楽観的にみられるものではなさそうです。
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