※ブログ記事の商品・サービスリンクにはアフィリエイトリンクが含まれます。

プロスペクト理論④-確率加重関数-【日常生活に活かす行動経済学の使い方】

 プロスペクト理論の話は次で一通りおしまいにしようと思ってますが、今回は「確率加重関数」のお話です。

 

患者さんと治療や検査の話をするときに、検査のリスクや治癒する確率とかお話することが多々あるのですが、これを知っておくと確率が通常人にどう解釈されるかのヒントになるので、結構応用が効く話だと思います。

 

プロスペクト理論①-確実性効果-【日常生活に活かす行動経済学の使い方】 – 脳内ライブラリアン

プロスペクト理論②-参照点依存性-【日常生活に活かす行動経済学の使い方】 – 脳内ライブラリアン

プロスペクト理論③-損失回避-【日常生活に活かす行動経済学の使い方】 – 脳内ライブラリアン

 

目次:

 

確率の解釈はイメージの影響を大きく受ける

過去にあった例で考えてみます。同時爆破テロの直後はアメリカの旅客機の利用者は大幅に減ったそうです。代わりに車の利用者が大幅に増えたようですが、これが何をもたらしたか。

 

そもそも旅客機の事故死亡率と乗用車の事故死亡率では後者のほうが高いです。テロ後とはいえ旅客機での事故率は警戒も強化されており変わりません。結果として利用者が大幅に増えた乗用車での事故死亡率が上昇したそうです。

 

これは旅客機の低い事故死亡率を正確に認識できず、テロの強烈なイメージに引っ張られて過大評価してしまった、といえます。かえって死亡率を高めてしまったことになります。

 

 

確率加重関数とは

というわけで、人は基本的に確率を認識するのが苦手です。そもそも確率がハッキリわからない事柄のほうが世の中多いですし、研究データで60%と具体的に説明されてもなお、うまく認識できません。

 

前回までに述べた効果の例をみても分かります。100%と95%には5%の差以上に大きな落差を感じますし(確実性効果)、損失がある場合、数%の確率の出来事でもはるかに大きく感じることがあります(損失回避)。

 

そこで一般的に人が確率の数値を知ったときにどのように受け取るかをまとめたのが確率加重関数です。横軸に実際の確率、縦軸に人が感じる確率の大きさを書くと以下のような図になる、というものです。

f:id:medibook:20200619140718j:image

(医療現場の行動経済学p.34より引用) 

正確に予測できるのは35%前後のあたりです(図ではおそらく簡略化のため?0.4となってますが)。特徴として0%からは比較的急激な伸びを見せ、100%に近づく寸前も急に伸びていきます。問題なのは通常0,100ではなくその中間にほとんどの確率が位置することです。この中間をみると、低い確率は過大評価され、高い確率は過小評価されていることが分かります。これがミソです。

 

また前回書いたの損失回避の関係で、利益と損失の場合では若干曲線が異なるようですが、基本的な性質は同じとされています。

 

日常生活でどう使うか

生活で使う、というものでもないんですが卑近な例でいうとポケモンのわざの命中率なんかはこのイメージがぴったりくる気がします(笑)。やっていたのは初代~ダイヤモンド・パールぐらいまでなのですが、命中率70の「かみなり」や「ふぶき」と命中率80の「ハイドロポンプ」はイメージ的にそこまで大きく命中率が変わる印象がないです。これは100%からやや離れており、変化が大きく感じられないという点にあてはまります。逆に「つのドリル」「じわれ」みたいな一撃必殺技はレベルが一緒なら命中率30だったと思うのですが、これも30%くらいだなあというのがしっくりくる当たり方だった印象です。確率をここまで直接的に意識できるメジャーなゲームってそんなないですよね。

 

普段の生活への応用を真面目に考えると医療職では患者さんへの説明が当てはまります。患者さんに検査の話をするときはどうしても検査での合併症リスクの話をしなければなりません。例えばよく説明するのは造影剤という注射を使ったCT検査の説明です。「0.01%で死亡リスクがある」といった主旨の説明をするのですが、人によってはこの確率でも過大評価されて「検査をしたくない・・・」と言われる人もいます。もちろん大前提として検査をするメリットが大きいことは必要ですが、この場合にも確率加重関数の0%からの急峻な伸びが関係していると思われます。 こういう場合は、「10000人に1人出るくらいです」とかイメージしにくい確率から具体的な数に伝え方を変えることで多少なりとも受け取り方に変化が出ることもあります。

 

 

参考文献:「ファスト&スロー」「行動経済学〜経済は『感情』で動いている〜」「医療現場の行動経済学」

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

行動経済学でノーベル賞を共同で受賞したダニエル・カーネマンの本。行動経済学について知るだけでなく、自分の視点が大きく変わるので大変おすすめです。 

行動経済学~経済は「感情」で動いている~ (光文社新書)

行動経済学~経済は「感情」で動いている~ (光文社新書)

  • 作者:友野 典男
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: Kindle版
 

新書ですがぎっしりと基本が詰まっており、理論も掘り下げています。それでいて分かりやすく入門書としてお勧めです。   

医療現場の行動経済学―すれ違う医者と患者

医療現場の行動経済学―すれ違う医者と患者

  • 作者:大竹 文雄,平井 啓
  • 発売日: 2018/07/27
  • メディア: Kindle版
 

医療の現場に合わせて書かれた行動経済学本です。普段の患者説明などなど患者さんが心理的にどう考えるのか具体的な事例をもって書かれており、「確かにこういう傾向あるな」と納得できる例も多く、患者心理の理解を進めるうえでも、自分たちの心理を知るうえでも面白かったです。 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)