今日は久々に専門的な話題を。
small fiber neuropathyについて調べる機会があったので、review articleを中心にざっと読みました。前々から気になっていた概念でありながら、あんまり日本語で良い文章を今まで見つけられなかったので、誰かの役に立てば、ということで載せてみます。
目次:
そもそもsmall fiber neuropathy(SFN)とはなにか
・神経線維は大径有髄線維Aα,Aβと小径有髄線維Aδ,小径無髄線維C(=small fiber)に分類される。
・このsmall fiberが選択的もしくは優位に障害されるのがsmall fiber neuropathy
・各神経線維の特徴と機能は下図参照
(表1、文献1より引用)
small fiberの機能とそこから考えられる症状
・機能はおおまか以下のように分けられる。
【大径線維】触覚、振動覚、位置覚
【小径線維】温覚、冷覚、痛覚(A-δ:刺すような、C:焼けるような)、自律神経機能
・よって、典型的な症状としては「刺す/焼けるような痛み」「刺激による異常感覚」「自律神経徴候」に注目する必要がある
・効率的に症状を確認する質問票としてSFN Symptom Inventory Questionnaire(SFN-SIQ), SFN Screening List(SFNSL)などが検討されている。SFNSLは文献2のappendixに載っていたので以下に記載)。SFN-SIQはちょっと見つけられませんでした。
(文献2より引用)
・基本的に疾患毎で異質性が高いが、典型的な臨床像は以下の2パターン3
(図1、文献3より引用)(左)length-dependentと(右)non-length dependent
・length dependentパターンは典型的には糖尿病、耐糖能異常で、足だけに留まることが多い
・non-length dependentパターンは傍腫瘍性、免疫介在性、特発性でよくみられる
検査
・ベッドサイドでの感覚の検査としては触覚/温痛覚/冷覚に対しての反応が大事→「アロディニアや痛覚過敏(ベッドシーツがこすれるだけで痛い、など)」「冷たいものが温かく感じる」「刺激をやめてからも感覚が持続する」「刺激への感覚低下」など3
・腱反射は低下しないことがあり、神経伝導検査が正常なこともある(大径線維の検査のため)→臨床的にはここが診断が難しいポイントかと思います。
・より客観的な検査としてQuantitative Sensory Testing(QST)と皮膚生検などがある。ただ、専門施設でないと難しい検査が多い。うちの病院もできないのでちょっと想像つきにくいですね。
◇QST:温覚、冷覚、痛覚刺激などを行って、自覚したかどうかを知らせてもらい、感覚刺激を定量評価する検査。すみませんが見たことがないのでよくわからないです。
◇皮膚生検:表皮内の小径神経密度(intraepidermal nerve density; IENFD)、汗腺の神経支配や軸索腫脹の程度などを評価する。感度/特異度ともに90%に近く、QSTより優れる。
※他に、発汗機能をみるsudomotor functionの検査や、corneal confocal microscopy(角膜共焦点顕微鏡)で角膜のsmall fiberを診る、などがあるようです。どれも見たことがない・・・。
診断基準
・現時点でコンセンサスの得られた明確な基準はない
・例としてDiabetic Neuropathy Study Group of the European Association for the Study of Diabetesの基準4では糖尿病でのSFNの確定例(definite)は以下で定義。
①length-dependent symptoms、②small fiberの臨床徴候
③ QSTの異常とIENFDの低下and/or 腓腹神経のNCSは正常もしくは異常
・small fiber neuropathyの定義をsmall fiberに選択的な異常ととれば、NCSは正常という基準もあり得るよう。ただ、いずれの場合にしても皮膚生検による所見もしくはQSTが必須で(そうでないと客観性が担保されない)専門施設でないと診断はしにくい印象です。
・臨床的には診察所見からニューロパチーを疑うようであればNCSを行い
正常である場合に、QST, 皮膚生検を考慮し、診断していく流れが推奨される。3
原因疾患
・原因疾患は多岐に渡り、精査しても30%-50%ほどは特発性となる。3
・コロンビア大学のstudy5では末梢神経専門施設に特発性ニューロパチー(SFN合併症例が多いがすべてではない)として紹介された373名の患者全てに対し、皮膚生検、糖負荷試験(2時間)、各種採血検査を行ったが、診断は以下のようであった。
①特発性 32.7%
②耐糖能低下(impaired glucose tolerance; IGT) 25.3%
③CIDP 20%
④MGUS 7%
⑤中毒性(ビタミンB6, サリドマイド, ビンブラスチン,アルコール,アミオダロン)…
・ちなみに、ここで挙げられているIGTの定義は『75gOGTT 2時間値が140-200mg/dl』であること。「糖尿病」の診断基準は2時間値≧200mg/dlなので必ずしも「糖尿病」には当てはまらない。、、、となるとlength dependentパターンをとるようなニューロパチーであれば、A1cが高度でなくて、OGTTはやっとくべき、ということになるのでしょうか。
・具体的な鑑別疾患はこちら
◇代謝性
糖尿病、IGT、慢性高血糖の急な補正時、甲状腺機能低下症、高TG血症、尿毒症
◇ビタミン欠乏
ビタミンB12欠乏
◇神経毒性物質への曝露、ビタミン中毒
アルコール、抗レトロウイルス薬、化学療法、有機溶剤、ビタミンB6中毒、スタチン
(報告レベル)フレカイニド、メトロニダゾール、リネゾリド、シプロフロキサシン、ボツリヌス中毒、タリウム、鉛、TNF-α阻害剤
◇感染症
C型肝炎、HIV、インフルエンザ、ハンセン病、敗血症・critical illness
(報告レベル)EBウイルス、ヘルペスウイルス、マイコプラズマ、風疹、梅毒、狂犬病ワクチン、水痘、ライム病、B型肝炎
◇免疫関連
Autoimmune autonomic ganglionopathy, セリアック病、ギランバレー、monoclonal gammopathies, ALアミロイドーシス、傍腫瘍、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、SLE、血管炎
◇遺伝性
家族性アミロイドポリニューロパチー、遺伝性感覚・自律神経ニューロパチー、ファブリー病、COL6A5(Naチャネル関連)遺伝子変異、ポンぺ病
◇特発性
(文献3より引用、和訳)
参考文献:
- Sène D. Small fiber neuropathy: Diagnosis, causes, and treatment. Jt Bone Spine. 2018;85(5):553-559. doi:10.1016/j.jbspin.2017.11.002
- Hoitsma E, De Vries J, Drent M. The small fiber neuropathy screening list: Construction and cross-validation in sarcoidosis. Respir Med. 2011;105(1):95-100. doi:10.1016/j.rmed.2010.09.014
- Terkelsen AJ, Karlsson P, Lauria G, Freeman R, Finnerup NB, Jensen TS. The diagnostic challenge of small fibre neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes. Lancet Neurol. 2017;16(11):934-944. doi:10.1016/S1474-4422(17)30329-0
- Malik RA, Veves A, Tesfaye S, et al. Small fibre neuropathy: role in the diagnosis of diabetic sensorimotor polyneuropathy. Diabetes Metab Res Rev. 2011;27(7):678-684. doi:10.1002/dmrr.1222
- Farhad K, Khosro, et al. “Causes of neuropathy in patients referred as “idiopathic neuropathy”.” Muscle & Nerve 53.6 (2016): 856-861.
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