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絶対に忘れない脳神経核の位置と解剖の覚え方

最近は専門医試験の勉強をやっと少しずつやっています。専門医試験では脳幹部の特殊な梗塞が問われることがしばしばあり、ここで問題になってくるのが脳幹部の神経解剖です。

「そんなものくらい神経内科医なら当然知っているでしょ」と言われると辛いところがありますが、せっかくなので改めてもうこれ以上忘れないように脳神経核の位置と解剖の覚え方についてまとめてみます。臨床的にはMRI水平断で確認することが多いと思うので、それに沿ってやってみます。

医学生の方々、研修医の方々にもお役立ていただけると幸いです。

それではみていきましょう。

なお、神経内科に興味がある方向けにおすすめ書籍もまとめていますので、より深めて勉強していきたい方はこちらもどうぞ

目次:

事前知識

①脳神経の機能

そもそも脳神経って何番がどれだっけとか、それぞれどんな機能なんだっけ、というのは流石に割愛します。ネット検索するとごろごろ情報が出てくるかと思います。

②各脳神経のレベル

もう一つ押さえておきたいのは、各脳神経の脳幹でのレベルです。

中脳〜延髄では以下のように分類されます。(図は矢状断です)

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数字は脳神経の番号です。

通常()なしの数字が簡単な教科書等には書いてあると思うのですが、それは各脳神経が出てくる場所であって、脳神経核については()の付いている数字のようになります。

5番の三叉神経の核は中脳〜延髄まで幅広く分布しますし、7、8番も核については延髄レベルまで長く広がります。

なお、1(嗅神経)、2(視神経)は場所も異なり、特殊なのでこの記事では触れません。11(副神経)も延髄〜頸髄に位置しており、頭蓋外に存在するため触れません。

③各脳神経の機能分類

それぞれの脳神経核がどこに分布するかは機能ごとにある程度は決まっています。

これは発生学的に考えると当然で、元々似た機能の脳神経は水平断でみた時も同じような場所に集まります。

機能については一般・特殊・体性・臓性・遠心・求心(あるいは運動・感覚)を組み合わせて7種類に分ける方法もありますが、7個は覚えにくいので、一般・特殊を分けずに以下の4つに分類します。

①体性運動性

例. 横紋筋を動かす神経核

②内臓運動性

例. 平滑筋や腺(唾液・涙)を支配する神経核

例. 鰓弓に由来する顔面・咽頭の横紋筋を動かす神経核

③内臓感覚性

例. 味覚、咽頭などの感覚を支配する神経核

④体性感覚性

例. 顔面などの知覚を支配する神経核

では、ここまでの知識を使って次に進みます。

脳幹での分布の大原則

ここからは脳幹で核がどこに分布するか考えていくわけですが、基本的な原則を覚えて記憶の容量を節約しようと思います。覚えるルールは3つだけ。あとは例外のみ後から触れていきます。

原則1:内側から体性運動性、内臓運動性、内臓感覚性、体性感覚性の順に並ぶ

まず、並び順は基本的にこうなります。延髄を例にとってみてみましょう。MRIで部位をある程度想定できることが前提なので、常に上側を腹側としていきます。

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結構中心側が狭いイメージで、基本的な並びはこうなっています。

実際には、下から頑張って上がってきた脊髄からの錐体路や内側毛帯などが腹側を通っているため、脳神経核は後ろに追いやられています。

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ひとまずはこの順番を覚えます。

原則2:脳神経は交叉せずそのまま脳幹を出る

文章そのままです。神経核からそのまま前に出ていきます。一部例外があります。

原則3:鰓弓由来の筋を動かす神経核は他の内臓運動性より前方外側に位置する

5、7、9、10の神経核は咽頭や顔面といった鰓弓に由来する横紋筋を動かします。これらは他の横紋筋を動かす神経核と違って、内臓運動性の部分に位置します。さらに、他の内臓運動性とも違って、やや前方外側に位置しています。

再び延髄を例に取るとこんな感じです。

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この3つの原則と一部の例外を抑えれば、脳神経核の位置は大体把握することができます。実際に個々の脳神経をみていきます。

個々の脳神経核<原則と例外>

では、この3つの原則に沿って脳神経核を順番に見ていきます。例外も合わせてみていきます。

3番動眼神経

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体性運動性のためルール通り、後方内側(1)に位置します。

!例外1!

さっそくですが、内臓運動性のEdinger-Westphal核(2)は原則1の例外です。

動眼神経核よりさらに内側に位置します。

4番滑車神経

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滑車神経核は中脳の中でも動眼神経核より尾側にあります。体性運動性のため、後方内側(赤丸)に位置します。

!例外2!

滑車神経は原則2と異なり、そのまま前方に出ず、後ろ側から交叉して出ていきます。いきなり例外が多いなと思ったかもしれませんが、残る例外は2つです。

5番三叉神経、6番外転神経、7番顔面神経、8番聴神経

まとめられるところはまとめていきます。橋下部レベルです。

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原則に則るとどれがどれでしょうか。

(1)はこの中で唯一の体性運動性なので6番の外転神経核です。

(2)の内臓運動性でやや前方に位置するのは顔面神経の運動核です。なお、三叉神経も運動成分がありますが(咀嚼筋)、もう少し上のレベルで橋の中部あたりにあります。

顔面神経は複数機能を持つ混合神経のため、後でもまた登場します。

(3)は体性感覚性の位置にあり、三叉神経脊髄路核になります。中脳〜延髄まで幅広いレベルで登場しますが基本的に後外側に位置します。国試でも問われがちなワレンベルグ症候群で顔面の痺れが出るのは、これが後外側にあり、さらに延髄まで広く分布しているせいですね。

(4)は聴神経の一部である蝸牛神経核になります。後外側のかなり外れにあり、下小脳脚に近いです。AICA(前下小脳動脈)の脳梗塞で難聴が出現するのはこの位置によるものです。

例外はここでの2点で終わりです。

!例外3!

(5)の青色の神経核は前庭神経核です。体性感覚性でありながら、位置としては少しだけ内側にあります。内臓感覚性に近い部位です。

!例外4!

(2)の顔面神経は外転神経核をぐるっと回って前方に出ていきます。こんな感じです。

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翻訳書である参考文献*1には以下のような記載があります。

下ネタが好きな第7脳神経は第4脳室近くでセックスが見られると聞き、初期発生の段階で反対方向の脳幹に伸びていきました. 第4脳室に近づいてみると誤解に気づきました. セックスではなくシックス(第6脳神経核)だったのです. そこで,顔面神経は,回れ右(about-face)して第6神経核を回り, 外側に出ていきました.(*1より引用)

この本はいったい急に何を言っているんだ・・・

そう思いましたが、印象に残ったので良しとします。

英語で「回れ右」がabout faceというところは第7脳神経と被せててオシャレだと思いました。

9番舌咽神経、10番迷走神経、12番舌下神経

続いて延髄レベルをみていきます。事前知識で述べたように5,7,8番の神経核も位置しています。

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こちらも基本的に原則通りです。

(1)は唯一の体性運動性である舌下神経です。

(2)は内臓運動性かつ鰓弓由来の筋支配の場所なので、舌咽神経と迷走神経の運動成分が集まる疑核を示します。

(3)は内臓運動性である迷走神経背側核が位置します。体の臓器に広がっていく神経の核ですね。また延髄の最も頭側では同様に内臓運動神経である顔面神経の上唾液核、舌咽神経の下唾液核が位置します。

(4)は内臓感覚性である孤束核が位置します。

・顔面神経(舌前方2/3)と舌咽神経(舌後方1/3)からの味覚

・舌咽神経と迷走神経からの咽頭の感覚

・舌咽神経からの頸動脈洞/頸動脈小体からの感覚

が集まります。

(5)は体性感覚性であるため、三叉神経脊髄路核となります。

(6)は橋の場合と同様の例外で前庭神経核が位置しています。

特殊な脳梗塞を考えてみる

さて、ここまでの知識を使って脳幹部の特殊な脳梗塞の症状を考えてみると良い練習になります。

例えば延髄外側症候群(ワレンベルグ症候群)であれば、延髄レベルの外側にある脳神経核が影響を受けます。

延髄レベルに核が存在する脳神経は(5,7,8)9,10,12でした。

これらを外側から順に並べると

5の体性感覚(三叉神経脊髄路核)

8の体性感覚(前庭神経核)<例外>

9、10の内臓運動(疑核)

7、9、10の内臓感覚(孤束核)

12の体性運動(舌下神経核)

となります。

実際は、上の2〜3つが障害されることが多いとされます。

同様に橋下部外側のAICA梗塞も考えてみます。

橋下部レベルでは5,6,7,8の神経核が存在します。

これも外側から考えると

8の体性感覚(蝸牛神経核)

5の体性感覚(三叉神経脊髄路核)

8の体性感覚(前庭神経核)<例外>

7の内臓運動(顔面神経核)

6の体性運動(外転神経核)

となります。

実際この梗塞では上の4つまで障害されることがあります。

こんな感じで、脳幹の特殊な脳梗塞を考えるときにも役に立つ原則かと思います。例外がいくつかあったり、血管支配域がどこまでなのかは分からなかったり、同じ機能分類の神経核がどこにあるか細かく分かりにくかったりするかと思いますが、まあ大まかに覚えられる!ということで大目にみていただきたいと思います(汗

参考文献:

*1『楽しく読めてすぐわかる臨床神経解剖』

かなり古い本ですが、上記のようにまとめ方がユニークな一冊です。

*2『イラスト解剖学 第10版』

学生時代にお世話になった本ですがいつの間にか第10版まで改訂されていました。現在はフルカラーのようです。

*3『脳卒中ビジュアルテキスト』

脳梗塞に関連した神経の局在や解剖に関してパッとみてわかりやすく構成されています。これから脳梗塞診療にあたる方におすすめです。

*4『脳の機能解剖と画像診断』

脳神経核の位置の確認のため使いました。

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