手の筋肉と神経支配と同様に足についても、出来るだけ簡素に原則と例外を覚える形でまとめてみようと思います。股間節まで含めるとまとめにくいので膝関節以遠について考えてみます。
手の筋肉と神経に関する前回記事はこちら↓
なお神経内科に興味がある人向けに書籍の紹介記事も書きました。より深めて勉強したい方はこちらもどうぞ。
目次:
事前知識
まず足の神経について、最も大きな神経とその分枝を最低限抑えます。
上側が腹側、下側が背側としてこんな感じになっています。
また大腿神経、総腓骨神経、脛骨神経の系統(各神経とその分枝)に分けると感覚は大まかに以下のように分かれています。図は膝までとしています
大雑把に言えば、前面は総腓骨神経系、後面が脛骨神経系、頭側前面は大腿神経系といった具合ですね。
このイメージをもってして、手と同様に原則を考えます。
原則
覚えるべき大原則としては
①腹側に曲がる運動は総腓骨神経系(ほとんど深腓骨神経)、背側の運動は脛骨神経
②膝関節の伸展は大腿神経
③外反内反は総腓骨神経系(浅腓骨神経)
となります。
図にするとこんな感じです。
そして例外は二つのみで
・膝屈曲の筋群の一部(大腿二頭筋短頭、薄筋)
・足関節底屈時の内反(後脛骨筋:L5障害vs総腓骨神経麻痺の鑑別で重要!)
です。
下肢の筋肉とその神経支配は専門医試験でもよく問われますし、また実臨床でもよく見られる下垂足(L5障害or総腓骨神経障害or深腓骨神経障害?)の鑑別で役立ちますので、そこを中心にみていきます。
それぞれ見ていきましょう。
膝関節の伸展
大腿四頭筋と呼ばれる筋群です。いずれも大腿神経の支配(L3,L4)となります。
大腿直筋、内側広筋、外側広筋、 中間広筋の4つから成ります。
感覚支配と同様に前面、膝上の部分なので大腿神経支配と覚えます。
膝関節の屈曲
膝関節の屈曲に使われるのは主にハムストリングスと呼ばれる4つの筋群+薄筋です。原則に則れば、脛骨神経ということになりますが、一部例外が含まれます。
また脛骨神経あるいは総腓骨神経の支配の筋は坐骨神経に由来するためL5,S1髄節になることを意識しておくと良いです。
・半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋長頭
これらは原則通りの脛骨神経支配です。
・大腿二頭筋短頭
例外として総腓骨神経支配です。
L5 vs 総腓骨神経麻痺の鑑別に役立つかと思いきや、ここは主にS1支配のようで、これが正常だとしてもL5障害は否定できないとの意見があります。*1
・薄筋
こちらも例外として閉鎖神経支配です。閉鎖神経といえば、股関節内転に用いる筋群を支配していますね。
閉鎖神経がL2-4の腰神経に由来することから、この筋もL2,L3髄節支配であり、他の屈筋群とは髄節が異なるため、髄節性の障害の鑑別に役立ちます。
足関節の背屈・足趾の伸展
原則通りですが、下腿であるため総腓骨神経から分枝した深腓骨神経・浅腓骨神経由来となります。なお、ほとんどが深腓骨神経です。
・前脛骨筋
下垂足の直接的な原因となる筋です。深腓骨神経・L4,5支配となります。
深腓骨神経は総腓骨神経からの分枝のため、総腓骨神経の障害が生じることでこの筋に筋力低下が生じます。例えば、腓骨頭による総腓骨神経の圧迫で下垂足が起きる「腓骨神経麻痺」は臨床でもときおり遭遇します。
・長趾伸筋、短趾伸筋、長母趾伸筋、短母趾伸筋
足趾の伸展を促す筋肉はいずれも基本的には深腓骨神経支配です。ただ、ここで注意が必要なのは短趾伸筋です。
神経伝導検査において深腓骨神経の評価に使われますが、約20-28%の症例では浅腓骨神経による変則支配があると言われています。*2こうした浅腓骨神経の変則の分枝のことを副深腓骨神経(accessory deep peroneal nerve)と呼びます。これがある場合は外顆後方からの電気刺激でも短趾伸筋のCMAPを検出することができます。
そうなると正常の際にも、元を辿った腓骨上からの近位部刺激CMAP<遠位部CMAPということが起きるので、伝導ブロックの判断が難しくなります(CMAPが低下しないので)。そういった場合には外顆後方からの刺激を行うことが必要になるでしょう。
足関節の底屈・足趾の屈曲
これは原則通りで、全て脛骨神経支配です。
・下腿三頭筋
腓腹筋内側頭、腓腹筋外側頭、ヒラメ筋から成ります。いずれも脛骨神経支配でL5,S1支配です。
S1優位なのでS1神経根症などで筋力低下が起きますが、その際CKが上昇することもあると言われています。*3通常鑑別にあがりにくいと思うので、注意が必要です。
・長趾屈筋、短趾屈筋、固有足筋
いずれも足趾の屈曲に関連しますが、手の場合と同様に長趾屈筋は主にDIP関節、短趾屈筋と固有足筋はPIP/MP関節に関連します。
長趾屈筋はL5,S1支配でL5優位であるため、脛骨神経支配・L5支配という意味で先程のL5障害 vs 腓骨神経麻痺の鑑別に役立ちます。*1
外反・内反
・長腓骨筋、短腓骨筋
いずれも浅腓骨神経支配、髄節はL5です。足の外反に使われます。
・後脛骨筋
足を底屈した状態で内反する筋になります。これは例外的に脛骨神経です。髄節はL5であるため、L5障害 vs 腓骨神経麻痺の鑑別に役立ちます。これが低下しているようであればL5障害である可能性が高くなります。底屈位であれば前脛骨筋が落ちていても姿位をとれるので有用ですね。
【おまけ:中殿筋】
これはおまけですが、L5障害 vs 腓骨神経麻痺を考えると中殿筋も鑑別に役立つ筋として候補に上がります。股関節の外転の働きをもち、上殿神経支配、髄節はL5,S1となっています。ただ文献*1によれば、L5障害でも中殿筋に筋力低下を来さない例も半数近くあるようで、必ずしもL5障害を否定はできないとされていますね。
まとめ
原則としては
①腹側に曲がる運動は総腓骨神経系(ほとんど深腓骨神経)、背側の運動は脛骨神経
②膝関節の伸展は大腿神経
③外反内反は総腓骨神経系(浅腓骨神経)
例外として
・膝屈曲の筋群の一部(大腿二頭筋短頭、薄筋)
→大腿二頭筋短頭は総腓骨神経、薄筋は閉鎖神経
・足関節底屈時の内反
→後脛骨筋で脛骨神経
でした。
L5障害 vs 腓骨神経麻痺の鑑別に役立つのは
・中殿筋 上殿神経 L5,S1
・後脛骨筋 脛骨神経 L5
・長趾屈筋 脛骨神経 L5,S1
で、実臨床的には後脛骨筋が良いのではないかと思われます。
参考文献:
*1『MMT・針筋電図ガイドブック』
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