脳神経内科に進む先生方から、おすすめの本を教えて欲しいという質問をよく受けます。私個人としては、初めに分かりやすい簡単な書籍から入ることをおすすめしますが、脳神経内科は何故か複雑な内容に魅力を感じる方も多く、気づけば難解な書籍が積まれてしまうことがあります(私も初めはそうでした)。そのため、今回は謙虚に、私自身が読み辛かった本の感想も含め、後期研修医から専門医取得前の先生方に向けて、持っている書籍を整理し、オススメポイントあるいはオススメできないポイントを簡単に触れて紹介したいと考えています。
このブログはほぼ統計と英語記事で出来上がっているのですが、実は数少ない神経内科がらみの記事でも検索で飛んできてくださる方がいるようです。もしそうした方に需要があれば、、、ということで書いてみました。意外とネット検索をしても神経内科のオススメ書籍をまとめた記事ってあまりないようなので、参考になれば幸いです。
神経内科といっても幅広いので今回は各論、総論、画像、生理検査とそれぞれ分けてみていきたいと思います。全体で思った以上に冊数があったのでおすすめ度順に並べておきます。
感想はあくまで個人的なものなので、異論反論、他のオススメ書籍などあれば教えていただけると嬉しいです。
ちなみに、以下の書籍の中で神経内科を専攻する人に絶対的にオススメしたいものを1冊選ぶとしたら『神経内科疾患の画像診断』。専門医試験対策としては『医学生・研修医のための神経内科学』かなと思ってます。
ではここに詳細をみていきましょう。
各論
Clinical Questions & Pearlsシリーズ
まずはこちらのCQ&Pシリーズですね。脳血管障害、認知症、頭痛、神経感染症、中枢脱髄性疾患、末梢神経障害、運動ニューロン疾患と幅広く各論をカバーしています。
この本が素晴らしいところはガイドラインや教科書的な記述にとどまらず、実際の臨床の場面でどうすべきかを教えてくれるところです。エキスパートオピニオンとなってしまう部分もあるのですが、臨床現場どうすればよいのかを具体的に指し示してくれるのは経験のない専攻したばかりの医師にとっては有難いことこの上ないです。運動ニューロン疾患の告知・説明はチェックリストまで作られており、実際初めての説明の前にはよく読みましたね、、、(もちろんチェックリスト通りにすべてを説明することはないのですが)。
どの分野の内容もとても読みやすいのでお高いですが、かなりおススメです。しいて問題点を言えば、内容がかなり具体的な臨床に寄っている分、中枢脱髄性疾患など新規薬剤が増えてきている分野については内容が遅れてしまっている部分があるので、発行年月日には注意です。
おすすめ度:★★★★★
認知症
科学的認知症診療5lessons
脳神経内科ではなく精神科の先生が書かれた本ですが、きちんとEvidence basedな情報がしっかり書かれており、その効果の程度も厳しく評価されている良書です。昨今の抗体医薬をこちらの先生がどのように評価されているのだろうと気になるところですね。診断に関しても過度に画像やアイソトープ検査を重視しすぎないようにバランスの取れた解説がされており、認知症の診療としてだけでなく、EBMの実践という意味でも非常に参考になる良書です。
おすすめ度:★★★★★
高次機能
高次機能障害の理解と診察
言語、視覚、聴覚、体性感覚、行為、記憶、右半球症状とそれぞれチャプターごとに各障害をその部位や診察方法を含めて解説されている良書です。高次機能はお互いが切っても切り離せない関係にあるので、なかなか慣れないと診察も難しいですが、丁寧に診察での特徴やそれぞれの障害の違いについても解説されています。感覚性失語・運動性失語の2種類でしか評価できないコンプレックスを抱えている方にはぜひおススメしたい一冊です。専門医試験でも症状から高次機能の分類を答えさせる問題は毎年出ていますが、対策にも役立ちました。
おすすめ度:★★★★★
高次機能障害の考えかたと画像診断
こちらも高次機能についての一冊ですが、どちらかというと心理評価的な側面の着目が多く、記載も教科書的で臨床への役立て方という点ではあまりピンとくるものがありませんでした。読者層による部分もあるのかもしれませんが、積極的におすすめはしにくいです。
おすすめ度:★★☆☆☆
パーキンソン病
パーキンソン病発症機序に基づく治療
パーキンソン病498例という膨大な経験から症状、薬剤治療、経過について読み解かれた一冊です。ちょっと情報量が多くて個人的には読み切れない印象でしたが、臨床でのさまざまなtipsが役立つときがあります。本書で紹介されているメネシットを溶解させたメネシットドリンクはなかなか衝撃的でした。
おすすめ度:★★★☆☆
てんかん
ねころんで読めるてんかん診療
てんかんといえば新規薬剤が以前に比べ増加し、てんかんの疾病分類と合わせると、イマイチその特徴や治療方法がつかみにくいところがあります。そんなところを分かり易くざっくりと説明してくれるのがこの「ねころんで読める」シリーズです。薬剤のカバーのイメージやてんかん診療の基本について臨床的に困るところに寄り添って優しく解説してくれています。初めの一冊としておすすめしたいです。
この本について改めて調べてみたところ「もっとねころんで読めるてんかん診療」という続編が出ていたことを初めて知りました。目次をみたところ新規抗てんかん薬や外科的治療、てんかんと社会的な問題など確実に押さえておきたいトピックが目白押しでした。実際に読んではいないですが、内容的にはニーズは高そうです。
おすすめ度:★★★★☆
トコトンわかるてんかん発作の聞き出し方と薬の使い方
てんかん発作を医師が直接目撃して診断治療に当たることは基本的にあまりありません。そこで重要となるのが目撃者に対する問診です。てんかんの診断は自動車運転の禁止や長期的な内服などその人への影響が大変に大きいので、本当に慎重かつ注意深くしなければいけないものです。この本はタイトル通りそこにかなりの重点を置いた貴重な一冊ですので、そこが自信がないという意識のある方にはぜひおススメしたいです。薬の使い方、変更や増減をどうしていくかについても具体的に書いてありますので自身の予約外来が始まる前にはチェックしておきたい内容でもあります。
おすすめ度:★★★★☆
てんかんの薬物療法 効果的な治療薬選択のために
てんかんの薬剤に重点を置いて解説された一冊です。新規抗てんかん薬についての蓄積されたデータについて触れられている貴重な一冊ですので、診療に慣れてきたころに追加で呼んでおきたい内容となっています。
おすすめ度:★★★☆☆
筋疾患
筋疾患診療ハンドブック
筋疾患はなぜだか本が少ない印象があり、あまりこれといった書籍がないんですね。ちょっと古いですがこちらの一冊が比較的平易で幅広くまとめられているものかなと思います。診療の際に使えるほど詳細な内容ではないので、実臨床では基本的にガイドラインをみてやっていくしかなさそうですね。
おすすめ度:★★★☆☆
頭痛
ねころんで読める頭痛学
上述のCQ&Pシリーズで十分とは思いますが、それでもとっつきにくいという人はこちらがおすすめです。各頭痛の歴史だとかニーチェが群発頭痛持ちだったのではないかとか面白い話もたくさんありますので、読みやすさは折り紙付きですね。内容としても基本的に頻度の多い一次性頭痛とRCVSなどちょっとわかりにくい重篤な頭痛もカバーされており、日常診療に間違いなく役立ちます。
おすすめ度:★★★★☆
総論
本来は総論を先に持ってくるべきな気がしましたが、各論と比べるとあんまり読み込んでいる本がなかったので、後にしてしまいました。「神経内科ハンドブック」などほかにも有名どころはありますので、偏ったチョイスかもしれません。順番に紹介していきます。
イラストでわかる神経症候
10年以上前の本で在庫もあまりないかもしれないですが、これはかなり分かり易いです。脳幹のような解剖的に混み入った部位の障害や髄節・末梢神経の障害ってなかなか理解しにくいと思うんですね。例えばone-and-halfとかMLFは国試でも厄介な存在だと思うんですけれど、そうした症候をシンプルなイラストでまとめてくれているので理解が進みます。また髄節や末梢神経障害についてもどの症候が出て、どの症候が出ないのか、イラストのパネルを多数使って分かり易く表現されており、診察して鑑別する際にもとても役立ちます。こうした解剖に関連する所見についてはおそらく時代を経ても大きく変わることは少ないので、古い本ですがオススメしておきたいです。
おすすめ度:★★★★★
医学生・研修医のための神経内科学
医学生・研修医のための、とありますが専門医試験対策で大活躍する一冊です。記載としては教科書的で臨床で役立つ場面は少ないのですが、特筆すべきはそのカバー範囲の広さです。代謝性疾患などの希少疾患まで含めてきっちりと解説されており、しかも細やかに改訂がなされているという素晴らしさもあります。専門医試験を見据える場合は1年ほど前に購入しておくことをお勧めしたいです。巻末に診断基準のまとめもあり、こちらもざっと復習するのに役に立ちます。一人で良くここまで書けるものだと本当に驚かされますね・・・。
おすすめ度:★★★★☆
ベッドサイド神経の診かた
神経診察や所見って普段ルーチンでやらないものは結構忘れていってしまうのですが、そうした所見も含めてベッドサイドで観察できる所見を細かく解説してくれているのがこの一冊です。特に専攻医なり立ての時は頻度の低い診察は忘れがちなので、それをカバーするためにもこちらを読んでおくことをおすすめします。
おすすめ度:★★★★☆
神経症状の診かた・考えかた
神経内科に来院することの多い症状・緊急疾患に関して経験とピットフォールを交えて生き生きとした説明がなされていることが特徴的な一冊です。ところどころに経験が交えられるため、内容がやや散らかりやすく、少し取っ付き辛い点がありますがこれは良い点でもあります。神経内科は稀だけれども存在を知らないと診断ができない病気がそれなりにあるため、こうした一例の経験に基づく疾患を知っておくと診断が何とかできるようになるからです。例えば自分もnumb chin syndrome, numb cheek syndromeはこの本で存在を知りました。また、終盤には神経診察と画像検査でのピットフォールが書かれています。こちらのほうが取っ付きやすいので先にこちらを読みつつ、前半の内容は時々開いて少しずつ読むというスタイルがおすすめです。
おすすめ度:★★★★☆
見逃し症例から学ぶ 神経症状の“診”極めかた
症例の病歴から初期診断を紹介し、そこから経過・所見をみながら最終診断を確認するというスタイルの本です。この本で取り扱われている、椎骨動脈乖離、抗NMDA受容体脳炎、低髄液圧症候群、ミラーフィッシャー症候群などは自分の経験でも救急で見逃されているのを何度か目撃しています。こうした症例ばかりを集めているので脳神経内科のみならず、救急にかかわる医師で脳神経内科に興味がある人なら読んで損はない内容だと思います。各症例には簡単な解説もついているため、救急診療をある程度経験した段階であれば読むのはそこまで難しくありません。
おすすめ度:★★★☆☆
筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト辞典
一般書なのですが、筋肉の部位と動き、支配神経がカラーでとても分かりやすく描いてあるため購入しました。~筋と言われてイマイチ部位や動きが把握できない人にはお勧めです。専門書ではないため安いのも魅力。
おすすめ度:★★★☆☆
脳画像(MRI・CTなど)
神経内科疾患の画像診断
これは脳神経内科に進む方には絶対に買ってほしい一冊です。おすすめ度星5つでは全く表現できないほどに強く強くオススメします!なぜここまでオススメするかといえば、その内容のカバー範囲の広さと充実度合いが半端ではないからです。驚きの1000ページを超えるこの本の中には感染症、脱髄疾患、代謝性疾患、悪性腫瘍、脳血管障害、てんかんといった基本的な分類からduropathiesのようなやや取り扱われる頻度の低い疾患まで網羅されています。個々の分類においてもかなりマニアックな部分まで疾患が網羅されており、病型まで細かく言及されています。さらに各画像所見ごとの鑑別というのが「キーポイント」というコラムでところどころまとめられており、画像所見から鑑別を絞っていく時にも役立ちます。加えて有難いのは、症例画像のみならず疾患の解説も充実していることです。診断基準や症状、鑑別となる疾患も触れられており、臨床では大助かりです。この分厚さですので通読には向きませんが、臨床で類似した症例に出会ったときに開くだけでも知識が大幅に増えること間違いなしです。また章ごとの通読は何とかできますので、専門医試験の際には代謝性疾患など頻度の低い疾患の知識をまとめるのに役立ちました。
著者の柳下先生の講演を何度か拝聴したことがありますが、その造詣の深さにはただただ驚くばかりでした。あれだけの知識と経験があるからこそ、このような書籍を書けるのだと納得した記憶があります。実はこの本に私が経験した症例も載せてもらっており、そんな思い入れバイアスもあるかもしれませんが、とにかく一番オススメしたい書籍なので、神経内科を志す方はぜひとも読んでみてください。
おすすめ度:★★★★★
脳の機能解剖と画像診断
画像のスライス断面のようなイラストを用いてスライスごとの脳の解剖部位を細かく示しつつ、臨床的な想定でどこでどのような障害がでるのかを解説した本です。普段の臨床ですと脳底部での病変は果たしてどこにどの症状が関連するのか細かくて判断が難しいときがあるのですが、細かいスライスごとに解剖学的部位を特定してくれているので、画像と比較しながら障害部位を特定するのに役立ちます。文章での説明はやや教科書的なのであまり好みではありませんでした。
おすすめ度:★★★☆☆
ここまでわかる頭部救急のCT・MRI
救急疾患に絞って画像所見を細かく解説しています。MRIについてはシークエンスごとの特徴や発症後の時期ごとでの画像変化などまで詳しく説明されているので、一歩踏み込んだやや深い知識まで得ることができます。特に脳血管障害がメインで説明されていますので、脳神経内科のみならず脳外科の先生にもオススメできるように思います。反面、救急で来る疾患の中でも脳血管障害以外はあまり分量を割かれて
おすすめ度:★★★☆☆
CD-ROMでレッスン 脳画像の読み方
こちらはCDROMで脳画像のスライスごとにみることができ、実際的で分かり易い内容となっています。前頭葉、頭頂葉などの基本的な脳の部位や中心前回といったキーとなる構造を学ぶことができます。ごく初歩的な内容にはなるので、救急などで脳画像をある程度見る必要がある初期研修医にもお勧めできます。
おすすめ度:★★★☆☆
電気生理検査
脳波超速ラーニング
脳波の記事でもオススメしていたと思うのですが、こちらもかなり勧めたい一冊です。電気生理検査というのは脳神経内科の中でも専門とする人が限られますので施設によっては自学自習するしかないことがあります。加えてそのような施設ではそもそも検査自体があまりやられていないことが多いので、実際の検査に慣れ親しむことができないのが難点です。そんな時に役立つのがこの書籍に付属するCDです。デジタル脳波計が昨今普及しており、現在までに私が働いてきた病院もすべてデジタル脳波でしたが、この本のCDを使うとそのデジタル脳波と同様に、自身のパソコンで自由に脳波所見を読むことができます。電極の誘導パターンや振幅、ハイカットフィルターを変えるといったデジタル脳波特有の機能をすべてきっちりと再現できるため、実際の場面に即した練習として非常に効率が良いです。本の解説も簡潔で分かりやすく、入門書としてこれ以上のものはないと思います。分厚い一冊を無理して読破するより、まずはこちらの書籍から始めて、基本の内容と実際の判読方法に慣れることが一番ですね。
おすすめ度:★★★★★
ここからはじめる!神経伝導検査・筋電図ナビ
神経伝導検査、筋電図検査に関して初めに読む一冊としておすすめするならこの本です。検査の基本的な知識とやり方、所見の解釈が非常にコンパクトにまとまっています。基本的な内容ながらMartin-Gruber吻合などの正常亜型と注意点も抑えてありますので、専門医試験までの内容ならこちらで十分対応できると思います。次に紹介する「神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために」を初めの一冊として買っている人をよく見かけますが、挫折率が高いので私はこちらの方が先が良いと思ってます(自分も挫折したので)。
おすすめ度:★★★★☆
神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために
神経伝導検査と筋電図に関して深い知識まで含めて紹介されている本です。実際のケースを題材にした解説も充実していますし、終盤第5部では解剖の知識も細かく解説されています。特に実際に書きながら覚えるという腕神経叢に関しての解説は何度も読み直したくなるものでした。CDもついており、実際の筋電図の音まで学べるという点では素晴らしい一冊となっています。ただ、内容がどうしても多いので概要をつかむという点では苦しい点が多く、まず基本を押さえてからこちらを読むことをお勧めしたいです。
おすすめ度:★★★★☆
MMT・針筋電図ガイドブック
電気生理学分野で有名な園生先生が書かれた一冊です。MMTに精通することは神経局在を決めるうえで非常に役立つスキルだと思いますが、この本では全身の筋の隅々までMMTのとり方が解説されており、類書を見ない細かさです。各筋についての筋電図の測定方法も合わせて記載がありますが、私個人はMMTのとり方だけのためにこの本を使っています。診察方法に加えてどのような鑑別で役立つのかといった情報も比較的コンパクトにまとめられており、下垂足におけるL5障害 vs 腓骨神経麻痺のような神経内科的メジャーな問題には十分対処できるようになります。
おすすめ度:★★★★☆
脳波の行間を読む デジタル脳波判読術
脳波超速ラーニングと同じ飛松先生が書かれた本で、pitfallを中心に脳波所見を症例ベースでみていく内容となっています。より実践的な内容になると思いますので、脳波超速ラーニングを読んで物足りなければ続いて読んでいくという形が良さそうです。ただ、こちらはCD付属等はなく、自分で誘導を変えながら脳波を読んだりはできないので、やや魅力に欠ける部分はあるかもしれません。
おすすめ度:★★★☆☆
よくわかる脳波判読
実例ベースでみながら脳波の基本的な内容を押さえることができる一冊です。クイズ形式で脳波の所見をみながら解答で基本知識をつけていく内容となっています。これも説明が平易で比較的分かり易い一冊ながら、脳波超速ラーニングよりは少し説明内容も多くなっていますので、初心者にはおススメできます。
おすすめ度:★★★☆☆
神経伝導検査必携ハンドブック
神経伝導検査について基礎的な内容と臨床的な内容を一つのカテゴリにつき、2ページごとで簡便にまとめている一冊です。一つずつの内容が短いので読みやすいのですが、個々の内容が頭の中でまとまりきらないので、少し記憶がしにくい印象です。少しずつ読んで自分で内容をしっかりまとめられる人なら良いかもしれません。
おすすめ度:★★★☆☆
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