3/3のJAMAにて、台湾のコロナウイルス対応の論文(view point)が
出ていたので読みました。
コロナ関連はJAMA, Lancet, NEJMなどいずれの有名医学雑誌も
すべて無料で読めるのが有難いですね。
最近のニュース記事によると
徐々に感染者は増えつつあるようですが
中国に隣接していることを踏まえるとコントロールはかなり良好です。
論文詳細 ↓
Response to COVID-19 in TaiwanBig Data Analytics, New Technology, and Proactive Testing
特に論文内のe-supplementに日付毎の
政府のアクションがまとめられているので分かり易いです。
コントロールのポイントはどこにあったのか。
内容を抜粋して要約します。
台湾がいかに危険にさらされていたか
台湾は中国より約130kmの距離にあり
感染拡大の初期には2番目に感染が拡大すると考えられていました。
2300万人の人口を有し、85万人が中国に住んでおり
40万4千人が中国で働いています。
2019年には年間で271万人が中国から台湾を訪問しています。
加えて春節を迎えることで、台湾-中国間の人の移動も
増加する可能性が高く、感染が伝播する危険度はかなり高かったといえます。
そりゃ普通に感染拡大すると思いますよね。
①初動が早い
2019年12月31日、WHOが新型肺炎について周知した時点で
武漢からの帰国便に対し熱発・上気道症状がないかの調査を開始しています。
2020年1月20日Central Epidemic Command Centerという対策本部を設置します。
日本でのこういった組織の立ち上げは10日間遅れ、1月30日になります。
この時点で対策本部が立ち上げられていることで
渡航歴の把握や、濃厚接触者の追跡、中国からの渡航制限が
急ピッチで進められていきます。
大きな動きとしては1月27日の時点で(日本で対策本部が作られる前)
National Health Insurance Administration(NHIA)とNational Immigration Agency(NIA)が
共同して過去14日間の渡航歴と健康保険の情報の統合が行われています。
なんとたった1日で。
加えて、戸籍と入国カードからハイリスクの渡航歴のある人の把握もできるように
なっています。
②新しい技術・システムを素早く導入している
初動で得られた渡航歴の情報を有効利用しています。
携帯電話を通じて、上記のハイリスクな渡航歴がある人に
自宅隔離の措置をとっています。
また、出入国時にはQRコードをスキャンして
オンラインフォームを入力し
出国時・入国時の健康状態を確認。
SMSを用いて出入国時の健康状態をチェックすることで
リスクを抑えつつ、スムーズに移動ができるようにしています。
これも3日でシステム完成。
圧倒的なスピードです。
さらにこれも医療機関にとって素晴らしいのは
2月18日時点ですべての病院・クリニック・薬局で
渡航歴情報にアクセスできるようにしたこと。
日本だと結局自己申告に頼るしかないので
問診時に聴取するしかないのですが、予めすべて分かるというのはすごい。
正直今の時点ですと、中国に限らず周辺の東南アジアや
イタリア・イランなどに渡航していても感染リスクは十分あるわけで
把握の必要性は高いわけです。
これは今後も長期的に活きてくるシステムだと思います。
③デマ・パニックへの対応と罰則
マスク不足と意味不明なデマ(「トイレットペーパーが入手困難になる」や
「~がコロナに効く」といったもの)への対策も
罰則を設けつつ厳しい対応をしています。
マスクに対しては価格設定の他、政府の資金を使用してマスクの増産を促進
(増産は日本もやってますが)。
マスク50枚あたり約$10までに制限をかけました。
デマに対しての罰則として
1月22日の時点で罰金を約$100,000までに引き上げ。
実際に2月9日には「シアン化合物がコロナウイルス対策に有効」という
デマをフェイスブックで流した男性を起訴しています。
2月11日には「トイレットペーパーが不足する」という誤情報に対して
コメントを出しています。
厚生労働省のHPにも情報については随時更新されてますが
こういったデマには
罰則のような抑制と確認後の打ち消し、の両面が重要でしょうか。
学ぶべきところは
これだけ台湾の初動が早いのは
本論文のみならず、各ニュース記事などで指摘されているように
2003年のSARSでの失敗があったから、だと思われます。
かつ、中国と隣接しており、常に動向には注意しているわけで
危機意識も当然高い。
感染者は加速度的に増加していくので
初動が遅れることは致命的です。
初期の感染者の数が、早期終息の確率に
いかに影響を与えるかは前回記事(COVID-19の終息をシミュレーションした論文 – 脳内ライブラリアン)の
論文でも検討されています。
今から同じ戦略で有効なものがあるかというと
既に国内での感染が広まっている以上、それは乏しいとは思われます。
(何なら休校措置などは遅ればせながら同じことをやっている)
もう既に市中での感染者は増加していると思われるので
前回の記事でも書いた通り早期の終息(1-2か月単位)は
まず無理ではないでしょうか。
拡大は抑えきれないとしても
いかにして終息を早めるか。
台湾の事例から学べることは
とにかく状況を先回りした措置をとる
ということだと思います。
医療現場に立っているものとしては
次に起こりうる最悪のシナリオとしては
院内感染が広がること
そして、医療機関が麻痺すること
だと思います。
最近は外来患者さんの数を見ていても
数が明らかに減っているように思うので
“医療機関に行くと感染するかもしれない”
という意識は共有されつつあるように思いますが
移動できない入院患者さんはまた別です。
医療従事者への知識の徹底をお願いしたいところです。
ちなみにこのニュース記事(前編後編あり)で
日本との比較もしつつ、まとめられています。
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