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明文化されない言語の特徴を学ぶ方法

前回論文英語の話を書きましたが、第二言語の学習において難しいのは、「明文化されない言語の特徴」をどう掴むかと言うことだと個人的には思っています。

先日紹介した医学論文英語の本ではcomfortable Englishの例として短く伝えることを原則としています。こういった規則性のある文法ではない「感覚のようなもの」をどう掴めばよいのか。ネイティブの方から見てもなんか変な文章、とは言えても、すぐさま理由を述べることが難しいこの「感覚」について、第二言語学習理論の本を読みながら、ちょっと考えてみました。
目次:

母語との違いをもとに考える対照分析仮説

日本語は言語学の分類からしても、一般的に考えても明らかに英語からは遠い言語です。文の形もS(主語)-V(動詞)-O(目的語)ではなくSOVが基本ですし、文字も違いますし、rとlの発音の違いは認識できないですし。
こうした言語間の違いを考慮せずに当てはめてしまうと、英語の「感覚」とは異なるものが出来上がってしまいます。和製英語をそのまま使ってしまうのも、この一例でしょう。
「母語との違いを考慮せず、間違えてしまうこと」を重要視したのが対照分析仮説と呼ばれる理論です。この仮説では母語での例を当てはめてしまうことで第二言語学習者の間違いを指摘しようとします。
この説は非常に有力なように聞こえますし、実際英語学習の本でもこのような事を中心に書いてあるものもありますが、どうもこれだけでは説明できないようです。
というのも、異なる母語をもつ第二言語学習者(例えば中国人とフランス人が英語を学ぶ場合)で同じようなミスをすることが指摘できるからです。対照分析仮説に従えば、母語が違えば間違える事項は異なるはずですが、実はそうではなかった。
さらにはこの対照分析仮説は以前紹介した行動主義に則ったものであり、行動主義の批判と合わせて否定的な意見が出てくるようになります。
行動主義についてはこちらを参照ください。

第二言語の学習過程で形成されるのは中間言語

そこで代わりに出てきたのが中間言語仮説とよばれる理論です。

異なる母語をもつ第二言語学習者でも同じようなミスをしており、これはその第二言語を母語として学ぶ幼児と同じタイプのものだったことが明らかになりました。

そこで1972年にLarry Selinker(現在はミシガン大学の言語学教授)は中間言語(interlanguage)という概念を提示しました。この言語は第二言語学習者の中で成立するルールで構成されており、母語とも第二言語ともルールが異なる、というものです。いわば自分ルールの言語というところですね。

ただ、この中間言語はあくまで自分ルールになってしまうため、フィードバックが得られないとそのルールが固定され、化石化(fossilization)してしまう、と言う問題点があります。

では、この自分ルールをどうやって第二言語のルールに近づけるのか。

中間言語をどうやって第二言語に近づけるか

その都度自分の第二言語をフィードバックしてくれるネイティブスピーカーがいれば最強だと思いますが、そんな人は残念ながらいません。

そうなると自分でネイティブの書いたor話した第二言語からインプットするしかないですよね。その際の注意点について考えてみました。

①違いに自覚的になる

自分の使っている中間言語とネイティブの第二言語との違いに敏感にならないといけません。どこがどう違っていて、またそれはなぜなのか。特に「意味を知っている」と思っている単語の使い方や文章の構成ではより自覚的にならないと気づけないと思います。

例えば、知っている単語であるはずの前置詞ひとつの使い方にしても、意外と知らないことが結構あります。以下の文の前置詞の間違いを指摘できるでしょうか。

There were no significant differences of the shapes and sizes of fins between the two species.

(その2種の鰭には、形にもサイズにも有意差は見られなかった。)

(『英文校正会社が教える 英語論文のミス100』より引用)

ここではdifferencesのあとには”of”ではなく”in”が入ります。“of”程度の違いを述べるときに使われ、“in”特徴の違いを示すときに使われます。

なぜ、ここで、この前置詞なのか、読むときには気になりませんが、いざ書くとなると問題となってきます。必要なのはこういった差異をある程度知っておき、読む際にも自覚的になることだと思います。

②イメージを用いる

言葉で説明しようとすると母語と第二言語で共通した感覚をつかめないので、イメージを使う。これも一つの方法だと思います。

例えばこの辺の本は、最近書店でもよくみますが、前置詞をイメージでつかむというものですね。単語間の細かい違いや前置詞といった他のものと組み合わせて使うものは言葉で説明しきれない部分がどうしても出てくるので特にイメージが重宝します。また、画像は記憶にも残りやすいという利点もあります。

③文化的背景を知る

話されている言語の文化的な背景が分からなければ、意味をとることができない言葉は多数あります。

最近のスローガンでいうと”Black lives matter”は日本語に訳しにくいので、今もそのまま使われています。過去の歴史と文化的な背景をもとに叫ばれているため、日本語で「黒人の命は大切」といっても何だかちぐはぐな感じがしてしまいます。

実際、文化的な背景を知るということは、言語学習の効率を上げるうえでも有用です。金銭や仕事上での必要性をモチベーションとする道具的動機付けよりも、その言語を話す外国人や文化に好印象をもつことによる統合的動機付けの方が学習に成功しやすいともいわれいます。まあ、言語学習に成功しているから好印象をもっているという逆の関係である可能性もありますが。

ただ、経験的にも文化的に好印象を持っているほうが、言語学習に成功するという例には枚挙にいとまがないわけで、「アニメが大好きすぎて日本語が流暢な外国人」とか「韓国ドラマが好きで韓国語しゃべれるようになった日本人」とか一杯いるわけですね。そして、最たるものが「外国人の彼女/彼氏を作る」でしょうか。

昔図書館で数学者かつ多言語習得者であるピーター・フランクルの本を読みましたが、この人はまさに女の子と喋ることが多言語習得の最良の方法と勧めていましたね(笑)妻子持ちとなった今やできませんが、単身のかたは是非試してみていただきたいです。

④コーパス言語学

あともうひとつ、個人的に興味がある手段は「コーパス言語学」というものです。これは言語の中で使われる単語の種類や頻度、共起表現(どの単語が一緒に用いられやすいか)を統計学的に解析して特徴を探し出す方法論です。いわばネイティブが単語をどう用いるかの感覚を統計的に暴き出すわけですね。これを用いた単語帳とかも時々見かけます。

論文英語とか結構使う表現似通ってるじゃんと思うので、頻出単語を集めて使い方を解析していけば面白いんじゃないかなと思ってます。「コーパス言語学で学ぶ神経内科の論文英語」なんてくそマニアックな本は何十年たっても出ないと思うので、自分でやってみたいところですね。

ちなみにコーパス言語学に則った一般的に使うアメリカ英語のデータベースなんかはこちらに収集されています。使ってみると面白いと思います。

Corpus of Contemporary American English (COCA)

実際のコーパスの使い方はこちらも参照ください。

論文の英語表現をコーパスを使って磨く方法 – 脳内ライブラリアン

参考文献:

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