初見で解ける気は全然しないのですが、改めて見てみると、理解さえしていれば、計算量は比較的少なく済む問題でした。
[1]
まず、平均ベクトル \(\mu\) の各成分 \(\mu_t\) の最尤推定量 \(\hat{\mu}_t\) の従う分布についての問題です。
\(Y_{it}\) は各被験者 \(i\) の測定値として期待値を求めると
\[
E[\hat{\mu}_t] =E[ \frac{1}{N} \sum_{i=1}^{N} Y_{it}]\\=\frac{1}{N}E[\sum_{i=1}^{N} Y_{it}]\\=\mu_t
\]
さらに分散は例えば時点0においての分散をσとすると
\(V(\hat{\mu}_0)=V[\frac{1}{N} \sum_{i=1}^{N} Y_{i0}]\\=\frac{1}{N^2}E[\sum_{i=1}^{N} Y_{i0}]\\=\frac{\sigma}{N}\)
となります。共分散に関しても定義に沿って計算すると同様になりますので、答えとしては
最尤推定量のベクトルは平均ベクトルμ、分散共分散行列\(\frac{1}{N}\Sigma\)に従う3変量正規分布となる、というのが正解です。
[2]
分散共分散行列 \(\Sigma\) の構造として、Toeplitz と無構造の二つの仮定を考え、AICを求める問題です。Toeplitz行列というのを全く知りませんでしたが、実は分からなくても解ける問題でした(統計検定あるあるですね)。どうやら対角行列が等しい行列のことで、時点に関わらず各変数の分散が同じ、という仮定を置くということのようです。
さて問題としては単純に尤度と推定パラメータ数をかぞえていけばOKです。
AIC は次の式で計算されます。
\[
\text{AIC} = -2 \log L + 2k
\]
ここで、\(L\) は対数尤度、\(k\) は推定パラメータの数です。表 1 より、Toepiltz 構造の場合の パラメータが分散3つ、平均3つですので、k=6を代入してAIC 値は \(-424.84\)、無構造の場合は分散が6つ、平均3つですので \(-427.74\) です。
これにより、無構造の方がより適切そうな値ですが、公式の解答としては差も僅かなのでそうとも言い切れない、という雰囲気の回答となっています。
[3]
相関行列 \(R\) の推定値は、分散共分散行列 \(\Sigma\) の各要素を用いて、次のように計算します。
\[
R = \frac{1}{\sigma_0} \Sigma
\]
Yの3つの変数の分散が同じ値なので相関係数の定義式を考えるとこうなるかと思います。
Toeplitz 構造を仮定し、以下の表の値を代入して計算します。
\[
R = \begin{pmatrix}
1 & \frac{1.54}{2.56} & \frac{1.48}{2.56} \\
\frac{1.54}{2.56} & 1 & \frac{1.54}{2.56} \\
\frac{1.48}{2.56} & \frac{1.54}{2.56} & 1
\end{pmatrix}
\]
[4]
変化量 \(\Delta Y\) は、\(Y_8 – Y_0\) で計算できます。その平均値は次のようになります。
\[
\hat{\mu}_{\Delta} = \hat{\mu}_8 – \hat{\mu}_0 = 5.72 – 5.18 = 0.54
\]
次に、その分散を計算します。分散の公式を使用して、共分散も考慮します。なお[1]で求めたように、1/Nを入れるところにも注意が必要です。
\[
V(\hat{\mu}_{\Delta}) = V(\hat{\mu}_8) + V(\hat{\mu}_0) – 2 \text{Cov}(\hat{\mu}_8, \hat{\mu}_0)
\]
\[
V(\hat{\mu}_{\Delta}) = \frac{1}{40} (2.56 + 2.56 – 2 \times 1.48) = \frac{1}{40} \times 2.16 = 0.054
\]
標準誤差は次のようになります。
\[
\text{SE} = \sqrt{0.054} \approx 0.23
\]
[5]
Z 検定の統計量は次のように計算されます。
\[
Z = \frac{\hat{\mu}_\Delta}{\text{SE}} = \frac{0.54}{0.23} \approx 2.35
\]
有意水準 5% の両側 Z 検定での臨界値は約 \(\pm 1.96\) です。したがって、\(Z\) の値が臨界値を超えているため、帰無仮説を棄却できます。
過去の問題のまとめは以下にあります↓
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