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コロナによる経済影響が続く今こそ読みたい『経済政策で人は死ぬか?』

さて、今日は本の紹介です。『経済政策で人は死ぬか?』という公衆衛生修士/政治社会学博士と医師/疫学者の二人が書いた本です。

 

 

経済の細かい話が出てきたらどうしようと思ってましたが、一般向けに書かれた本であり、その辺の知識がなくても意味は十分に理解できる本でした。

 

目次:

 

経済と健康の関係

邦題となっている『経済政策で人は死ぬか?』ですが、自分の普段の経験から考えると、少なくとも「収入によっては」人は死に得ることは感じます。

 

薬代が高くて払えず、通院を中断して脳梗塞になってしまった中年男性や、施設に入るお金がないため仕方なく自宅で介護されており、十分な介護ができず低体温で運ばれてくる高齢者、アルコールをどうしてもやめられず、重度の合併症で不可逆的な脳の障害が残ってしまった若者、難病にもかかわらず治療薬が高価で使えない(難病申請したとしても)若者などなど、、、医学的には必要な治療ができれば決してこうなるはずはなかったのに、生活環境の問題でどうにも介入できない人々というのは必ずいます。

 

これらはあくまで象徴的な例で、認知できていないけれど、同様の問題を抱えている例というのもまだまだ沢山あるのではないでしょうか。

 

そして、同様に今のコロナウイルスの流行による女性の自殺者の増加も単純な病院における医療以外の政策・メディアの影響を感じさせます。

先月の自殺者 去年より40%増加 女性が大幅増 コロナの影響も | 新型コロナウイルス | NHKニュース

この辺の細かい話はマッシー池田先生のHPが大変に詳しいです。

新型コロナ:自殺者を急増させた史上初の感染症

一見、過激に見える文言もありますが、、きちんとしたデータの解釈がなされているページです。

 

著者の二人は実際に自分が経済的な影響を受けて、健康面を害した経験に基づいてこの本を書いています。家賃を払って生活できるところもなく、肺炎を起こしたり、苦労をされたようです。だからこそ、熱意を持って書かれた一冊だと言えます。

 

大規模な経済危機を振り返る

本書では、過去にあった大規模な経済危機を振り返って、そのころの各国民の健康状態のデータを確認してし、同じように経済の影響を受けているのに、国毎で健康の影響が異なる場合、その原因はどこにあるのかを明らかにしていく形で分析していきます。著者はこれを大規模な自然実験と呼んでいます。

 

取り扱われる経済危機は1930年代のアメリカの大恐慌からソ連崩壊後の急激な転換、アジア通貨危機、アイスセーブの問題(これ知りませんでした)、ギリシャ危機、リーマンショック後の影響などなど近代から現代まで聴き馴染みのある話が多く出てきます。

 

また、オバマケア、NHS(イギリスの保健サービス)などの行政サービスの話や、住居・失業がいかに健康に影響を与えるかという話まで後半では触れられます。

 

ここで、経済危機を見ていく上で重要なのが「不況=必ずしも不健康」ではない、ということです。働き口がないため、労働時間が短くなるとかえって、健康状態が良くなる部分もあるということなようです。ただ、こうなるのはもちろん適切な失業給付や再就職の励行、適切に医療を受けられる健康保険制度があってのことです。それがなくては、ただただ不安と収入減少により、健康を損なっていきます。

 

そこで、経済政策としてはどうすべきなのか。

 

本書で強調されているのは、早期の経済成長を目的として急激な緊縮財政を行なった場合に、失業給付や就職の支援、医療制度の改悪などをしていくと、自殺者の増加や感染症の蔓延(生活環境悪化による結核や感染予防キャンペーンの縮小によるAIDSなど)、生活習慣病の悪化などにより、かえって国民の健康を大きく損ない、のちの経済成長も阻害するということです。「改革には痛みを伴う」と称してまるでその後に良い状態が待っているかのような政策があったとしても、経済成長が得られる頃にはそれを聞いている人が死んでいるんじゃ話になりません。人あっての経済であり、その政策で犠牲になっているのはどこなのかをよく見極める必要がありそうです。

 

現状を振り返って

自殺者の増加は一歩も二歩も遅いくらいで、もうすでに始まっています。コロナウイルス自体の死亡率は徐々に下がっており、本来コロナに感染してもほぼ死ぬはずがなかった人たちがどんどん亡くなっているというのは由々しき事態です。

 

相変わらず感染者数の「単なる数の増加」ばかりの報道が強く押しだされていますが、それも問題ではあるんですけれど、自殺者の問題やそれに対してどう対処するかということをもっと報じてほしいと思います。

 

この本を読んで思い出したのが、2016年のイギリス・フランスの映画「私はダニエル・ブレイク」でした。現実の利用者のことを考えていない社会福祉制度の虚しさとその中での救いが隣人との交流であることが描かれています。

 

身近に困っている人がいたらちょっとしたことでも手を貸してあげることや、この経済と健康の問題に目を向けたりすることが自分たちにひとまずできることかもしれません。

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