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論文の関係性を可視化するツール①“Inciteful“

はや半年となりますが、今年から大学院生になりました。

医師兼大学院生にありがちなことだと思いますが、現状は臨床業務をやらされてせていただいており、まだ研究に本格的に取り組んではおりません。そんな状況ですが、少しずつでも研究を進捗させるため、自分のテーマに沿った論文を自力で探し始めています。

ところが、基礎研究に近い分野をやることになったので、どの論文を読んでもあんまりにもチンプンカンプン。統計とか疫学とは大きく離れた分野ですし、そもそもの背景知識が無さすぎて困っています。

皆さんも、

研究テーマで何が重要な論文なのかわからない
・与えられたテーマと関係する論文がどの程度あるかわからない
・引用がたくさんありすぎてテーマの論文との関係性がイマイチ分からない

そんな疑問はないでしょうか?

そんなよく知らない分野において文献検索をする上で助けになるのが文献同士の関係を可視化するグラフ生成ツールたちです!

たとえば自身の研究室の論文など、テーマに特に関係の深い論文をベースとして関連性のある論文をグラフ化し、さらに自身のテーマに関係があるものをたぐっていくことができる。そうした論文を少しずつ集めていくうちになんとなく全体像がつかめてくるのではないでしょうか。

今回の記事を皮切りにそんなツールをこれからいくつか紹介していきたいと思います。

まず初回として現在のところ一番愛用しているincitefulを紹介します。

公式ページはこちら
Using Citations to Explore Academic Literature | Inciteful.xyz

incitefulとは?

incitefulは論文の情報を入力すると類似した論文、重要な論文を抽出しグラフ化してくれるウェブツールです。ツール名は”insightful”(洞察力のある)と”cite”(引用)を掛け合わせた造語となっています。

その名の通り引用のネットワークを重視しており、そこにlink prediction algorithmsと呼ばれるアルゴリズムを用いて類似性を判断しているようです。これはSNSにおける「友達」の予測と似たものだそうです。SNSを使っていると情報を入力していないつもりでもリアルな知り合いが次々と提示されるところに恐怖を感じるのですが、その恐ろしき正答率をもつアルゴリズムが使われているわけです。

また重要性についてはpagerankと呼ばれる論文の重要性と引用を組み合わせた基準で選ばれているようです。詳しいアルゴリズムは公式ページを見ると良いのかもしれません。

Paper Discovery Explained – Inciteful Docs

このツールを作ったアイディアの原点が公式ページに書いてあるのですが、これがなかなかリアルな話で秀逸です。

製作者の妻が研究のためにgoogle scholarで論文検索をしていたそうです。そこから引用を辿ることを繰り返し、一つ一つの検索結果を記録し、論文間の関係性をノートにメモする、、、。これはかなりキツイですね。自分も検索結果を記録したら良いんじゃないかと思った時もあったのですが、なんというか人の頭で理解できる形とかけ離れてますよね。整理するのは大変すぎですし。

そんなわけで製作者が妻想い、、、だったのかはわかりませんが、自動化するプロセスを考案して最終的にここへ辿り着いたようです。その研究分野に対する初学者向けに作ったという発想からきているためか、このツールはグラフのみではなくレビューや過去の重要な論文、直近の重要な論文などを一覧にしてざっと表示してくれますので、自分のような初学者のニーズとはマッチしているんじゃないかと思っています。

しかも今のところは無料です。今後有料化したりする可能性もありますが、今のところはログインなしでささっと使えます。逆に言えばログインがないので、検索記録や過去に作ったグラフを保存しておく機能はありません。ここは利点とも欠点とも言えるでしょう。

ただ、文献のデータファイルとして使われるBibTex形式で調べた結果を出力したり入力することもできるようです。Zotero, Mendeleyでの使い方がヘルプページに記載されており、bibファイルを介してスムーズに使えるのではないでしょうか。なお、自分はpaperpileを使っているのですが、こちらで出力したbibファイルはなぜかうまく使えませんでした。

では続いて具体的な使い方をいくつか見ていきましょう。

使い方①単一の論文から探る

今のところもっぱら私はこの方法で論文の洗い出しをしています。
まずはトップページの左側のフォームに
「論文タイトル、DOI、pubmed URLもしくはarXiv URL」
を入力します。(以下、画像はinciteful.xyzより引用)

例として2021年のnatureに載ったタウの構造の論文(“Structure-based classification of tauopathies”)を出してみましょう。

そうしますと論文の基本的な情報がまず出てきます。被引用数、引用数、出版年、オープンアクセスの有無、グラフに関連する論文数、グラフ中の引用総数、グラフ深度などが表示されます。

さらに下に出てくるのが類似した論文による引用ネットワークを可視化したグラフです。

グラフの見方ですが

間の線:引用関係
円の色の濃さ:論文出版の時期
円の大きさ:被引用論文数

となっています。

上記のようにそれぞれの円にカーソルを当てると論文のタイトルなどの情報が表示され、クリックすることで該当論文との引用関係や論文へのリンクが表示されます。その論文を中心としたグラフに飛ぶこともできます。

この辺は使っていけばどんどんわかると思います。

さらにページ下部には
Similar Papers 類似した論文
Most Important Papers 最も重要な論文
Review Papers レビュー

がそれぞれ類似性、重要性、引用数の順に並んでいます。もちろん年代順など並び替えは可能です。

続いて
Recent Papers by the Top 100 Authors トップ著者100名による最近の論文
The Most Important Recent Papers 最近で最も重要な論文

の情報が表示されます。

最後に
Top Authors トップ著者
Institutions 研究機関
Top Journals トップジャーナル

の順に情報が得られます。

まずは気になる論文を入れてこういった情報をざっと眺めつつ、めぼしいレビューと重要論文をいくつか見ていくと、とても捗りますね。

使い方②情報を追加してグラフの調整をする

続いてグラフを目的の内容に応じてさらに最適化する方法です。

1. フィルター
まず一つは、一番上の方の画面でフィルターというのがありますので、そこにキーワードや年代を入力します。

これを行うことでグラフがフィルターを通したものに変更されます。ページ下部の内容もそれを受けて変化しますので、最初に表示された内容がちょっとずれているなと感じたら、必要に応じて入力します。

2. グラフの基となる論文の追加
もう一つの方法はグラフ内に表示する論文(a seed paper)を追加する方法です。

フィルターの右側にある部分に追加したい論文タイトルを入力します。もしくは論文の一覧表における(+)マークをクリックすることでもグラフ生成のための論文を追加することができます。

このツールでは一応5つ以上は入れることを推奨していますが、まあそこまで入れなくても十分使えるようにも思います。

使い方③2つの論文の関係性を探る

トップページの右側で二つの論文のタイトルを入力するとそれぞれの論文が引用関係によってどのように繋がれるかを確認できます。

全然関係ないように見える論文でも実は引用関係をいくつか辿れば繋がっていることがわかります。友達の友達を辿っていけば国の首相に辿り着くみたいな話ですね。

たとえば先ほどのタウの論文と”principles of confounder selection”という交絡因子について述べたessayを繋げようとしてみます。基礎研究と因果推論という一見異なる論文ですが、グラフに出てくる数は少ないものの以下のように簡単につながりました。

具体的な内容を見てみると

タウオパチーの立体構造による分類の話

マウスモデルでのタウオパチーの話
“Amyloid Oligomers Exacerbate Tau Pathology in a Mouse Model of Tauopathy”

アルツハイマー病の多因性のマッピングの話
“Mapping the multicausality of Alzheimer’s disease through group model building”

交絡因子の選択の話

といった具合につながったようですね。こうして関連する論文の視野が広がるのはなかなか楽しいです。

なお、上記の使い方①でもグラフの円をクリックすれば同様にどうつながっているかが分かります。

実際今のところはレビューを読んで基本的な知識を広げる段階なので、あまりこちらの機能は使っていませんが、キーとなる論文が定まってきているようであれば繋がりをいろいろ見てみるのは面白いかもしれません。

まとめ

さて今回はincitefulというグラフで可視化する論文検索ツールを紹介しました。利点や使い方のポイントをまとめます。

・2023年10月時点では無料で使用可能、グラフ作成も無制限に可能
・ログイン不要なのでお手軽ですが、逆に検索したものは保存されない
・引用関係+重要性を判断してグラフ化
・レビューや重要性の高い論文などリスト化した情報も得られる

お手軽に使えますし、引用関係のみでない情報も幅広く得られるので、ある分野で情報を探し始めたときにはとても使いやすい印象です。

論文のグラフの可視化がどんな感じになるのか、まず試してみたい人にはぜひおすすめです。

続いて次回は同様のグラフ化ツールであるResearch Rabbitについてみていきたいと思います。
次回の記事はこちら→論文の関係性を可視化するツール②”ResearchRabbit”

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