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今更ながら『JAMA Users’ Guides to the Medical Literature』を激推ししてみる

さて、Youtubeチャンネルでは次回以降臨床試験について徐々に掘り下げていくため、以前からこのブログでおすすめしている”JAMA Users’ Guides to the Medical Literature”を改めて読み直していました。

そういえば「EBMを学ぶ人にこの本はメチャクチャおススメなのに、紹介記事を書いたことがない!」ということに気づきました。周りで持っている人も見かけたことがないので、これはもっと普及させないと!というわけで紹介します。

誰が編集した本?

この本は、医学論文を臨床に応用するという方法論を徹底的に説明した一冊となっているのですが、それもそのはず、共同編集者として中心となっているのはGordon Guyatt先生です。この方はEBMの生みの親ともいわれており、EBMという言葉を普及させ広めた臨床論文の読み方に関する第一人者で、現在診療ガイドラインで普及してきたGRADEアプローチでも重要な役割を担っています。

そんな人が編集しているわけですからEBMを学ぶ上で欠かせない一冊であることはまず間違いないといえるでしょう。

EBMの歴史について調べるとカナダのMcMaster universityに在籍していたDavid Sackett(名著といわれるclinical epidemiologyの著者)からGordon Guyattへの受け継がれる流れが必ず書いてあり、この本も紹介されていることが多いです。

網羅的で幅広い臨床研究をカバー

まず、全体の構成から紹介します。目次は以下のようになっています。

  • The Foundations
  • Therapy
  • Harm(Observational Studies)
  • Diagnosis
  • Prognosis
  • Summarizing the Evidence
  • Moving From Evidence to Action

Therapyでは主に介入試験の読み方を、Harm,Diagnosisでは観察研究の読み方、Summarizing the evidenceではメタアナリシスの読み方、そして最後のMoving From Evidence to Actionではガイドラインの適用などを主にみていきます。

Moving From Evidence to Actionという章があるところをみると、まるでそこからが実臨床に結び付く話が始まるかのようですが、そんなことは全くありません。全編ほぼすべてが実臨床に結びつけられた話となっています。そのため統計や研究の分類などの概念のみを退屈に説明するような章は全体から見るとかなり少なく(個人的には統計は好きですけど)、主に臨床と関連づけて、何に注意すべきか、どう解釈すべきかを説明し続けています。

加えて、観察研究から介入研究、果てはメタアナリシス(さらにネットワークメタアナリシス)まで幅広くカバーしているため、「臨床で疑問に出会って論文を引いたけど本には詳しく書いてなかった」という事態も少ないです。圧巻の736ページであるがゆえにここまで網羅的にできるわけですが、臨床論文を読むときにはどんな時でもこの本を引くことで学びがあるというのは大きい利点です。

もちろんその反面、通読には適さないというデメリットがありますが、日常で出会った論文に関連した内容の章を読むだけでも十分に知識がつくと思いますので、少しずつ読むのが正解かと思っています。おススメしていますが実際自分もすべては読んでいなかったりします。

常に臨床への実用を意識した章の構成

それぞれの章にはClinical Scenarioと書かれるボックスがあり、まずは「実際に出会った症例で知りたいこと」が問題提起されます。

例えばTherapyの章の最初のシナリオは要約すると以下のようなものとなっています。

糖尿病、高血圧、脂質異常症がある62歳の男性が間欠性跛行を来し、末梢動脈疾患(PAD)と診断された。システマティックレビューのあるアスピリンやペントキシフィリンを試してみたが症状に効果がない。そこでラミプリルを使ったランダム化比較試験で、アウトカムが痛みのない歩行時間の延長となっている文献をみつけたが、、、


日常診療でこうした疑問が生じることは頻繁にあると思います。そこで文献検索するわけですが、この本が焦点を当てるのはその文献をどう読むべきか、ということ。こうした論文を読む上での注意事項がBOXという形で疑問形にして示されます。例えばこの例では以下のような感じです。

How serious was the risk of bias?
Did intervention and control groups start with the same prognosis?
Were patients randomized?
Was randomization concealed?

(『Users’ Guide to Medical Literature』より引用)

長いので略しましたが、以下このrisk of biasに関する疑問文が7個ほど続きます。ほとんどの場合、各章ごとに論文を読む上でのチェックポイントが凝縮された形でまとまっており、さっとここを読むだけで、どこに注意を払うべきなのかがよくわかります。

さらにその後の章内でそれぞれの項目について、「なぜ注意しなければいけないのか」「どこに注意を向ければいいのか」が丁寧、かつ論理的に説明されます。

タイトルの通りこの本はあくまで文献を使う臨床家に書かれたものなので、ここでは細かい数式や統計の話題はあまり出てきません。そのため統計が嫌いな人でも臨床にかかわる人であれば万人におすすめしやすい本と言えます。

良い例から悪い例まで充実した実例

論文を読む上での注意点の説明が同種の本と比べて抜群に面白いと感じるのは、圧倒的に豊富な実例にあると思います。それも特に惹かれるのは良い例、悪い例をどちらもしっかり含んでいることです。

医学研究の歴史は短い期間でみてもポジティブな結果がネガティブな結果で上書きされていたり、あるいはその逆も多々あります。現在の時点から見えるものというのは通常ポジティブな結果が多く「昔はこういう薬があったんだけど使わなくなったよね」というのは人の話づてに聞くくらいになりがちです。

ところがこのUsers’ Guideは結構ネガティブな実例もぽんぽん上げてきます。

例えば

  • CEAと大腸がんスクリーニング*1(今もやられていることはありますが、、、)
  • 中間解析であまりにも成績が良すぎた急性骨髄性白血病の試験*2
  • 代用エンドポイントでは心筋梗塞後に効くと思われた抗不整脈薬classⅠ*3

など今までいかに覆されてきたのかが、そうなる前の文献と合わせて紹介されているため、実際の歴史的な変遷を通じて臨床研究は誤りうるものなのだ、ということを学べます。

そうなると現在の試験結果についても批判的に吟味する姿勢が身に付きやすく、漫然と論文の主張受け入れるだけでない姿勢が養われます。どんどんと生み出されるセンセーショナルな新薬や検査に振り回されがちな今において、こうした姿勢を持って吟味できることは欠かせないことだと思います。

加えて、なかなか臨床をやっていく中では注意を向けにくい臨床研究に対する研究の論文を時々紹介してくれているのも嬉しい点です。例えば「有効性があって早期中止されたランダム化比較試験は、規模が小さいほど効果の大きい結果が出がちで、早期中止となってルールが明確になっていないのも多い*4」といったものですね。最近ですと、モルヌピラビルがちょうどこの例に当てはまっていたのではないでしょうか。一つ一つを見ていると気づかないことが多いですが、俯瞰的にみることで、こうした研究の問題点がどの程度結果の解釈に影響を及ぼすかは知っておいて損はないです。

いずれもきっちり参考文献として章末に紹介されていますので、実際に読むことでさらに知識が深まることでしょう。ただ、惜しむらくはこの最新の第3版ですら2014年に出されたものである点です。すでに8年も経ってしまっており、臨床研究の研究については現状を反映していないものも多いと思われます。とはいえ、そのほかの内容については今でも色あせない(というか自分もそうだけれど未だに知識が浸透していない)ことが多いので古くなってきたとはいえ、十二分に役立てられる内容になっていると思います。

ちなみに現在もJAMAの同名のコーナーではかなりの低頻度ですが論文が出ています。ちょうど最近はCOVID-19に対するステロイドのstudyで注目を浴びたplatform trialが説明されてましたね*5

Users’ Guide to the Medical Literature

なんだかもう改訂は難しそうな気がしますが、第4版が読んでみたいところです・・・。出たら絶対に買います。

EBMをこれから学ぼうという人には超絶おススメの一冊となっています。興味がわいたらぜひどうぞ。

個人的にはKindle版で実際の論文を見ながら、関連する用語を検索して読むのが好きな使い方ですが、英語が苦手な方には下記の日本語版もあるのでこちらでも良いかもしれません。ただ、ちらっと知人に見させてもらった感じだと邦訳がときどきつかみにくいところがありそうです。英語もそこまで複雑というわけではないので、読めそうな人は原著をオススメします。

文中で紹介した文献はこちら↓

*1 THE RADIOIMMUNOASSAY OF CIRCULATING CARCINOEMBRYONIC ANTIGEN OF THE HUMAN DIGESTIVE SYSTEM

*2 Be skeptical about unexpected large apparent treatment effects:: the case of an MRC AML12 randomization

*3 Mortality and Morbidity in Patients Receiving Encainide, Flecainide, or Placebo — The Cardiac Arrhythmia Suppression Trial

*4 Randomized trials stopped early for benefit: a systematic review

*5 How to Use and Interpret the Results of a Platform Trial

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